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専門コラム 第89話 ランチェスターの法則とニュースレター戦略【前編】

 

経営や営業の世界では、古くから「ランチェスターの法則」という理論が注目されてきました。

 

「ランチェスターの法則」は、理論自体が非常にシンプルな体系をしており、いつの時代にも当てはまる「不思議な普遍性」を携えています。

そして時代が大きく変わろうとする今、再び「ランチェスターの法則」が、静かに注目を集めています。

 

今回は「小が大に勝つ」ランチェスターの法則が、どのように営業活動に機能するか、筆者の体験も踏まえて2つの記事(【前編】・【後編】)にまとめています。

 

なお、【前編】にある第 1 法則・第 2 法則の解説では、「ランチェスターの法則」で有名な竹田陽一氏のウェブサイトから多くを参考にさせて頂きました。

 

新人の方にはやや難しいかも知れませんが、少しでも皆様の営業活動の参考になれば筆者としても嬉しく思います。

 

ランチェスターの法則とニュースレター戦略【前編】

ランチェスターの法則は、もとは戦術理論だった

 

あらためて「ランチェスターの法則」とは、英国人のエンジニア・起業家として活躍した、フレデリック・W・ランチェスターが考案した戦術理論です。

 

ランチェスター氏が、この法則を発表したのは1914年のこと。

第一次世界大戦の勃発(1914 年 7 月 28 日)に刺激を受けたランチェスター氏は、その約1ヵ月後の9月4日から「技術雑誌」に軍事的法則の考察結果などを連載し始めます。

 

そして、10 月 2 日の記事で「集中の法則、N2乗法」を発表、この中で有名な第1法則と第2法則を論じます。

 

また、10 月 9 日の記事で「集中の法則の応用、N2乗法」について論じたものが、1916 年に「戦闘における航空機 - 4番目の兵器の幕開け(Aircraft in Warfare ; the Dawn of the Fourth Arm)」にまとめられます。

(この書籍の出版を機に、ランチェスター氏はバーミンガム大学から名誉博士の称号を授与されます。)

 

この英文の原書は、同じ年に日本にも推定で200冊以上輸入されたそうです。

しかし、日本でランチェスターの法則が広まるのは、第二次世界戦後の復興期に入ってからで、アメリカから送られた3冊の書物「オペレーションズ・リサーチ(実際的問題解決法)」がきっかけとなっています。

 

「オペレーションズ・リサーチ(実際的問題解決法)」を、簡単に説明すると「如何にすれば、より効率的に日独に勝てるか」を研究した学問で、ランチェスターの法則とゲーム理論をミックスさせた「クープマン・モデル」(または「コープマン・モデル」)として知られています。

 

この書籍が日本科学技術連盟(日科技連)によって翻訳され、1955 年 9 月に翻訳版が出版されると「アメリカはこのような理論で戦争を戦っていたのか」と驚かされるとともに、併せてランチェスターの法則を、経営に応用する人が多数出てきました。

こうして日本でも、第一次の「ランチェスター戦略ブーム」が到来します。

 

ランチェスターの法則の考えに似た戦略や兵法自体は、孫子の兵法、真田の兵法など、日本にも古くから存在しました。

しかし、ランチェスターの法則のユニークな点は、その戦略を数字で示すことを可能にした点にあります。

 

 

ランチェスターの法則には第 1 法則・第 2 法則がある

 

ランチェスターの法則には、この法則の理解に欠かせない、有名な「第 1 法則・第 2 法則」があります。

第 1 法則・第 2 法則はそれぞれ次の計算式で表されます。

 

第1法則は弱者の戦略

 

攻撃力 = 兵力数 × 武器性能(質)

弱者・強者の武器性能と兵士の技能が同じなら、攻撃力は兵力の数に比例するというのが第 1 法則の基本的な考え方です。

 

第 1 法則では兵力数が同じだとすると、局地戦の場合、兵力が相手よりも勝る場合は、兵力数が多いと攻撃力が高くなります。

 

また見方を変えると、兵力数が少ない弱者が強者から包囲されないためには、戦場を山の険しい所や森が深い所など、強者の大軍が戦いにくい場所を選べば良いことになります。

 

さらに言えば、勝ち目が少ない弱者も戦場を選ぶことで、勝算は十分あると考えられます。

 

法則を考えたランチェスターは、「山が険しくて深い谷間を進軍する1000名の兵士は、3人の敵兵によって行く手が阻まれる」と説明していますが、数で負けてしまう弱者も、地の利を活かし、局地戦に追い込むことで相手の戦力を減らせます。

 

第1法則のことを「接近戦、一騎打戦の法則」と言われるのはこのためです。

 

第2法則は強者の戦略

 

攻撃力 = 兵力数2 × 武器性能(質)

 

弱者・強者の武器性能と兵士の技能が同じだとすると、攻撃力は兵士の数の2乗に比例するというのが第2法則の基本的な考え方です。

 

第 2 法則では、ライフル銃や機関銃といった射程距離が長い兵器を用い、弱者・強者が離れて戦ったときだけ成立するもので、戦場は概して平地で見通しが良い場所を選ぶ必要があります。

 

また第 2 法則が 2 乗になる根拠は「確率の法則」によります。

 

竹田陽一氏のサイトでも、5 人対 2 人の兵力が川を挟み、ライフル銃で撃ち合った例を取り上げています。

 

5 人側(優勢軍):5 人の中で誰が狙われるかの確率は 1 / 5。

これを 2 人の兵士から攻撃されるので、5 人側の計算上の損害は 2 / 5。

2 人側(劣勢軍):2 人のうち誰が狙われるかの確率は 1 / 2。

これを 5 人の兵士から攻撃されるので、2 人側の計算上の損害は 5 / 2。

 

よって、2 / 5 と 5 / 2 を通分すると、4 / 10  と 25 / 10 となり、兵力はほぼ2 乗になることが証明されます(4:25)。

 

第 2 法則が「強者の戦略」と言われるのは、射程距離が長い兵器を使い、戦場に見通しがよい平地を選び、敵と距離をおいて戦うことで、第 2 法則の 2 乗作用を呼び込めるからです。

 

一般に強者は第 2 法則を、弱者が第1法則を取ることを推奨されるのはこうした理由があります。

 

また、第 2 法則のことを、「間隔戦、確率戦の法則」と言われるのはこのためです。

 


弱者が戦うなら「戦いの場を少しずらすこと」だけを意識する!

 

ランチェスターの法則を専門的な研究対象としていない人なら、第 1 法則・第 2 法則の概要を理解できれば十分です。

なぜなら自分のおかれている業界において、弱者と強者がそれぞれ何なのかは、すでに周知のことだからです。

 

ちなみにランチェスターの法則における強者とは、市場占有率が26%以上であることが条件で、2位以下は全て弱者となります。

しかし自分が弱者に所属していることが自覚できていれば、ランチェスターの法則にさほどこだわる必要はないのでは、というのが筆者の考えです。

 

更にいうと、ランチェスターの法則では代表的な 5 つの戦法(局地戦、一騎討ち、接近戦、一点突破、奇襲攻撃など)をよく引き合いに出される方もいますが、筆者はもっと単純にこの法則を捉えています。

 

それは、「安定的に重点見込み客が表れ、重点折衝が確実ならば営業マンのメンタルヘルスはかなり改善するのでは」、という考えに基づいています。

具体的には、ランチェスターの法則を深く突き詰めるより、単純に弱者の戦略としては、「戦場を少しずらすこと」が大事なのだと考察しています。

 

つまり、戦う場所を「見通しがよい平地」ではなく「山が険しくて深い谷間」を選択するということです。

 

筆者はどちらかというと、小さな頃から愛想付き合いが苦手な、とても外交員や営業には向かないタイプです。

これは、現在でも本質的には変わりません。

 

そんな人間ですから『1枚のはがきで売上げを伸ばす方法』 [1] こそ、弱者が生き残れる道と信じていました。

 

そして、典型的な営業弱者でも戦場をずらすことで、その分野で 1 位になれるかも知れない。

まさにこの奇跡的なことに賭けてみたくなりました。

 

それが、ニュースレターを用いた営業戦略につながっていきます。

 

 


[1] 竹田陽一『1枚のはがきで売上げを伸ばす方法』(あさ出版、2016/6/23)