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専門コラム 第7話 共鳴と信頼を得て確固たる地位を築く

目的のない人生の恐ろしさ

みなさんは、賽の河原はご存知ですね。この世とあの世を分ける三途の川の川岸のことです。ここでは親より先に亡くなった幼子が、父のため、母を想って石を積み上げては鬼に崩されるという場面が延々繰り広げられるとされます。

実はこれ、仏典のどこにもなく民間信仰の類のようです。親より先に死んで親を悲しませないようにという教えではあるのですが、いつまでも悲しんでいては子供が成仏しないぞと親を諭すものでもあります。

解釈は別にして、この話で最も強く印象に残るのは、いくら積み上げてもその都度崩されるという責め苦の果てしない虚しさではないでしょうか。幼子は最後には、地蔵菩薩に救われるのですが……。

こんな話を持ち出したのは、「罪と罰」や「カラマーゾフの兄弟」などで知られるロシアの文豪、ドストエフスキーが次のような言葉を書き残していることを知ったからです。

もっとも残酷な刑罰は、徹底的に無益で無意味な労働をさせることだ。

人生またしかり。無意味な人生、目的のない人生ほど恐ろしいものはないのです。

これは、専制君主制下の弾圧によって懲役生活を強いられたドストエフスキーが、一つの桶から水を汲んで別の桶に移し、それをまた元の桶に移し替えるという作業を延々させられたという体験から生まれた言葉でした。まさに、賽の河原の石積みと同じです。

「正範語録」の教え

仕事というのは何かを生み出すためにあります。お金はその最たるものでしょうが、ほかにも自分のスキルアップや達成感、周りの笑顔など人によって求めるものはさまざまでしょう。万一、自分のやっている仕事が何も生み出さなければ、やる気がなくなるどころか、生きる張り合いさえも失っていくに違いありません。

もっとも、人間は一人で生きているのではありませんから、仕事に限らず人間の行動が何も生み出さないことなどあり得ません。一方で、最初から成功を約束された仕事や行動というのもありません。そんなものがあれば、我先にそれに飛びつくか、約束されないから面白いんじゃないかとばかりに、最初から見向きもしないかのどちらかでしょう。

実力を上げたいと考えるのも人生の立派な目的です。ただし、その際に近道を求めるのではなく、結果が分からないから人生は面白いと考える側に立ってほしいと思います。そこでの苦労なくして実力などつくはずがないのですから。

実力の差は努力の差、実績の差は責任感の差、人格の差は苦労の差、判断力の差は情報の差。真剣だと知恵が出る、中途半端だと愚痴が出る、いい加減だと言い訳ばかり。本気でするから大抵のことはできる、本気でするから何でも面白い、本気でしているからだれかが助けてくれる。

これは「正範語録」と題された言葉です。作者は分かりませんが、2010年ごろからフェイスブックを中心に爆発的に広まったそうです。含蓄に富み、納得させられる言葉の連続で、だからこそ拡散していったのでしょう。こうした言葉に感銘を受ける人が多いと知ると、ほっとさせられますね。

もう一つ、「鉄の女」と呼ばれた英国の宰相、マーガレット・サッチャーの言葉も紹介しておきましょう。

懸命に働かずしてトップに立った人など、私は一人も知りません。それがトップに立つための秘訣です。必ずしもそれでトップになれるとは限りませんが、かなり近いところまでは行けるはずです。

新しいリーダー像

では、実力をつけ、トップに立ったとしたら、あなたは何をしますか? どんな人間になっているでしょうか? 

そんなことを考えていたら、「ファシリテーター」という言葉が目につきました。直訳すれば「促進者」「(物事を)容易にする人」「世話人」といった意味です。1940年代に心理学の分野で生まれた言葉だそうですが、現代ではオルガナイザーの意味を持ち、会議や議論の優れた進行役という意味合いで多く使われます。

会議といえば、日本では残念ながら、大半の参加者は聞き役に徹し、声高に主張して議論をリードする人の意見が通りやすいというイメージがあります。意見が対立してお互いに意地を張って落としどころが見つからないのは困りますが、一人の考えが無批判に組織の考えになる方が大問題です。

ファシリテーターはそうした会議をうまくリードし、対立点を解きほぐしたり発言しない人の意見を引き出したり、新しい議論の方向性を示したりして、だれもが納得する結論に導く役割を果たします。

そのためには該博な知識を持っていなければなりませんし、情報処理能力なども求められますが、何より、周りから受け入れられる人格の持ち主であることが望ましいとされます。

ここまで説明すると、ファシリテーターにはリーダーの素質が必要だとお気づきになるでしょう。むしろ、ファシリテーターこそ新しいリーダー像と言えるかもしれません。

ファシリテーターが最近注目されてきているのも、現実社会が、権威的なリーダーではなく、周りに共感の輪を広げて仕事を進めていくリーダーを求めるようになってきていることの現れとみていいのではないでしょうか。

実力がついて仕事ができるようになると、周囲から一目置かれます。その発言にも説得力が生まれ、重みが増します。とても居心地のいい環境が待っている可能性は高いと言えるでしょう。

しかし、その快適さを独り占めしないようにしましょう。仕事ができることを鼻にかけたり上から目線の言動を繰り返したりするようになると、せっかく身に着けた実力さえ生かしきれないという事態を招きます。

「ミスター・ラグビー」と呼ばれ、ラグビー日本代表監督を務めた平尾誠二さんはこんな言葉を残しています。

マネジメントは理屈だけじゃダメなんです。いくら正しいことを言っていても、みんなが共鳴しなければ前には進めないんです。

あなたは実力をつけたうえで、「あの人が言うことは信頼できる」と共鳴と信頼を得て確固たる地位を築きたくありませんか?