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専門コラム 第63話 覚悟を決めたら絶対に投げ出さないあなたへ

  

カエサルが覚悟を決めたルビコン川

「賽(さい)は投げられた」――この言葉は、紀元前49年、現在のフランスを中心としたガリアの総督を解任されたカエサル(ジュリアス・シーザー)が、共和制ローマの北の防衛線だったルビコン川を渡ったときに発したとされる言葉です。

 

この川を軍を率いて渡るということは、生まれ育ったローマへの反逆とみなされるだけに、大きな覚悟を決めての渡渉だったのでしょう。

カエサルはその後、類まれなる軍事的才能とカリスマ性で政敵を次々に破り、共和制の核であった元老院派を抑え込んで帝政ローマの礎を築きます。

 

紀元前44年、カエサルは志半ばで暗殺されますが、カエサルの姪の息子であったオクタビアヌスがカエサルの遺言に従って後継となり、紀元前27年に初代皇帝に就任。

内戦を終わらせ、「パクス・ロマーナ(ローマによる平和)」をもたらしました。

 

ルビコン川を渡ったときのカエサルの覚悟が、見事に結実したと言えるでしょう。

 

ちなみに、この時のカエサルの行動が元になって、「ルビコン川を渡る」という言葉が、重要な決断をして一歩を踏み出すことを意味するようになりました。

日本で言えば、「清水の舞台から飛び降りる」が、若干ニュアンスの違いはあるものの、近いと言えるでしょうか。

 

同じような言葉に「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」があります。

こちらも覚悟を求めるものでしょう。

覚悟には、「決死の覚悟」という言葉があるように、一命を投げうつということまで含むことがあります。

いったん覚悟を決めたら逃げ出せないのです。

 

そこには常に戦いが待っています。

誰との戦いかといえば、敵やライバルもあるでしょうが、多くは自分との戦いです。

人は易きに流れます。

ことに、困難に直面したときほど、気持ちの弱さが現れやすいものです。

そのとき、人の真価は問われます。

 

柔道の五輪金メダリストで現在は男子の日本代表監督である井上康生さんは、こう言っています。

自分で戦う覚悟がなければ、調子が悪くなったり、苦しくなったりした時に外に目を向ける選手になってしまう。

外に目を向けるとは、不調の理由や苦しさから逃れる道を自分以外のものに求めるなどして、そこに立ち向かうことから逃げてしまうことを指すのでしょう。

 

スポーツの世界は、一流になればなるほど結果が求められます。

結果を出すためには、弱い己から目をそらせたいという葛藤と常に戦い続けなければならないことを示唆しているようです。

 

戦いの武器になる自己のブランド化

ビジネスにおける結果とは、言うまでもなくいい商品やサービスを提供して売り上げを伸ばし、会社を発展させていくことでしょう。

 

そこにおいても、常に自分との戦いが求められるはずです。

自分はどうありたいのか、どんな会社にしたいのかを常に自分に厳しく問いかけることによって戦い方も見えてくるのではないでしょうか。

 

近年、ブランディングという言葉が広まっています。

ブランドとして確立するまでの過程、手段を差します。それが、戦いの大きな武器になるという位置づけです。

 

ブランドといえば、グッチやシャネル、アップルといった世界の一流メーカーを思い浮かべます。

ブランドは、その名前自体に価値を有しており、名声を築きあげていくまでには厳しい過程を経たことでしょう。

しかし、ひとたびブランドが確立されれば、戦いはぐっと楽なものになるはずです。

 

個人でも同じことが言えると思います。

現代経営学の祖といわれるピーター・ドラッカーはこう言いました。

今日でも私は「何によって覚えられたいか」を自らに問い続ける。これは自らの成長を促す問いである。なぜならば、自らを異なる人物、そうなりうる人物としてみるよう仕向けてくれるからである。

 

マーケティングの専門家であるアメリカの経営思想家、フィリップ・コトラーによると、ブランドとは「他と区別するもの」、すなわち個性ですから、ドラッカーの言葉も、個人のブランディングの勧めと受け止めることができるのではないでしょうか。

 

日本でブランド論の第一人者とされる元東京大学大学院教授、片平秀貴さんはブランド作りの基本についてこう述べています。

これまでにないものを届けるという“驚き”、顧客にいかに思いを伝えるかという“哲学”、そしてお付き合いの後に気持ちよく帰ってもらうという“おもてなし”が重要だ。

 

驚きや哲学ならわかりますが、ここに「おもてなし」が入ってくることに違和感を覚える人がいるかもしれません。

しかし、世界的に認知されたアメリカ・シアトル発祥のスターバックスの例を見れば、少しは理解できそうです。

 

仕事に対する愛情がブランディングの基礎

スターバックスがコンセプトに掲げているのが「サード プレイス」。

家庭でも職場でもない第三の空間を意味し、家庭のようにくつろいでもらえ、職場のように仕事で利用してもらってもいいという考えです。

 

事実、アメリカの店舗では、Wi-Fi利用も無料で時間制限なしとなっていますし、照明やソファなどのインテリアも長居しやすい雰囲気を作り出しています。

 

また、フレンドリーな接客というのも、第1号店から変わらないスタンスです。

まさに、気持ちよく利用して気持ちよく帰ってもらうおもてなしの気持ちが全面に現れた店舗運営を行っているのです。

 

製品を提供する製造業なら、このおもてなしに当たるのはアフターサービスになるかもしれません。

 

「おもてなし」に通じるのが、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズの次の言葉ではないでしょうか。

私は、本当に好きな物事しか続けられないと確信している。何が好きなのかを探しなさい。あなたの仕事にも、恋人にも。

 

サッカーの王様と呼ばれたブラジルの英雄、ペレにもよく似たフレーズがあります。

成功は決して偶然ではない。勤勉、忍耐、知識、学び、犠牲、そして何よりも自分が取り組んでいることへの愛情が必要だ。

 

仕事に対する愛情こそが、自分の弱い気持ちに打ち勝ち、自分をブランディングする力になると言っているように思えます。

 

覚悟を決めても、投げ出さない、逃げ出さないのは難しいことです。

己に勝ち、ライバルに勝つためにも、まずは仕事に対する自分の思いを常に確認し、自分のブランディングを確固たるものにしたくありませんか。