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専門コラム 第28話 王道を歩んで結果を出していく。

ノーベル化学賞の吉野さんが勧める「柔らか頭」

今年のノーベル化学賞に旭化成名誉フェローの吉野彰さんが選ばれました。

アメリカの2氏とともにリチウムイオン電池の発明が評価されたものです。

吉野さんは受賞決定後の産経新聞との会見で、研究者に必要な資質を問われ、こう答えました。

研究者は頭が柔らかくないといけない。

それとは真逆でしつこく最後まであきらめないことも必要。

剛と柔のバランスをとるのが難しい。

堅いだけだとくじけてしまう。

壁にぶちあたったとき、『なんとかなるわね』という柔らかさが必要だと思います。

リチウムイオン電池の負極に最適の物質を探していた時期、毎夜、髪の毛がごっそり抜けるほど苦闘の日々が続いたというエピソードが明かされ、開発後も3年間はまったく売れなかったという話を聞くと、「しつこく最後まであきらめないこと」というのは分かります。 

一つのことに執着して、開発に向けた課題が24時間頭の中を占めつづけることによって、ある瞬間、その課題をクリアする答えがひらめくことがあるのでしょう。

多くの先達がそういう経験をしているようです。

インスタントラーメンの発明者で日清食品創業者の安藤百福もこう言っています。

発明はひらめきから、ひらめきは執念から。執念なきものに発明はない。

ただ、吉野さんの言葉には、勇気づけられる言葉が含まれます。

それが「堅いだけだとくじけてしまう」です。

一つのことに人生をかけて没頭するのは尊いものですが、大多数の〝普通の人〟にはなかなかできるものではないでしょうから。

では「頭の柔らかさ」とは何を指すのでしょうか。

先週の当コラムで触れた働き方改革の労働時間短縮にからめてもう一度考えてみましょう。

労働時間短縮を自分の成長に生かそう

労働時間短縮とはいっても、残業禁止が打ち出されたあおりで、会社でこなし切れない仕事を家に持ち帰ったりファミレスで仕事の続きをしたりする社員がいます。

さらに、「残業代が減る」「時間があっても何をしたらいいのか」という不満や戸惑いも招いています。

こうした声は、そもそも何のための労働時間短縮であるかが理解されていないことの表れでしょう。

労働時間短縮とは、社員が自分の時間を持てることだという考えるべきです。

そして、その時間をどう使うかを自分で考えるようにならないといけません。

言い換えれば、必要な仕事を無駄な仕事を区別し、無駄な仕事にかける時間を自分の時間に充てるという視点の転換が求められるということです。

                            

まずここで、思考の柔軟性が求められます。

つまり、従来型の踏襲という間違った因習から抜け出すことです。

言われた通り、教えられたとおりにやったじゃないかという考えは、もはや通用しません。そこからはひらめきは生まれませんし、自らの成長にもつながりません。

うまくいかなかったときの言い訳にしかならないでしょう。

ポイントは、「生活改革」をセットで考えることです。

一度、みなさんの1日の時間の使い方を振り返ってください。

9時、10時まで残業して、その後、職場の仲間同士で飲みに行き、それで気分転換になったつもりで、十分な睡眠時間も取らず翌日の仕事がまた始まる――。

そんなライフサイクルではありませんでしたか?

あおりで、休日はただボーっと過ごすだけ。

ときには仕事を持ち帰ってこなす。

そんな生活から、新しい発想は生まれません。

では、どうすれば「柔らか頭」を育てることができるのでしょうか。

京都財界の雄の一つで分析・計測機器メーカー大手の堀場製作所創業者、堀場雅夫の次の言葉にそのヒントが隠されているように思います。

 無駄話にこそアイデアやひらめきが隠されている。

「人、本、旅」の生活で仕事の王道に歩み出そう

ライフネット生命の創業者で立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんが、あるインタビュー記事でこう話しているのが目に留まりました。

「メシ、風呂、寝る」だけの生活をしても、経済をけん引するイノベーションは起こせない。「人、本、旅」の生活に切り替えることだ。

出口さんは、日本経済急落の大きな要因が、ダイバーシティの遅れや上位下達、組織に適合した均質化した人材を重宝しがちな日本の雇用慣行にある。

大切なのは、それらから脱却するために学び続けることだ。

新しいことを学び続けなければ人は変われない――と言うのです。

そして、それはマネジメントの問題だと鋭く指摘しています。

では、なぜ「人、本、旅」が必要なのかというと、それらが新しい価値観を教えてくれて脳に刺激を与えるからです。

違う価値観を持つ人との触れ合いと言えば、異業種交流があります。

仕事が終わってから自費で異業種交流会に参加して刺激を受け、それを仕事への取り組みに生かしている人はたくさんいます。

ノーベル化学賞に決まった吉野さんも、それを実践してきたといえます。

大学時代に石油化学を学んでいた吉野さんでしたが、「専門バカ」にならないよう、化学からかけはなれたことをやろうと考えて考古学の同好会に所属します。

旭化成では車のフロントガラス、燃えない発泡剤、光触媒という3つの研究開発に取り組みましたが、いずれもうまくいかずに断念。

「ニーズと技術がつながらないと研究は成功しない」と思い至ります。

4つ目に取り組んだのが、当時、ビデオカメラに求められていた小型軽量の二次電池でした。

それがリチウムイオン電池の開発につながるのですが、探し求めていた負極の材料は、社内の別の研究所が開発した炭素繊維にありました。

開発者からは「これを電池に使うの?」と驚かれましたが、それを元に最適な炭素素材を生み出したのです。

まさに、社内異業種とのハイブリッドの成果と言えるでしょう。

                               

本にしても旅にしても、いたるところに未知との遭遇はあります。

現在の仕事に直接関係しないことに目を向ける、時間を使う。

そこから生まれる新しい視点が、本来の仕事にも役立つはずです。

つまり、働き方改革で労働時間が短縮されたなら、その時間を「人、本、旅」に使ってみたらいいのです。

一見回り道のようですが、そこに自分の思い描くイメージを実現するヒントは必ずあると思います。

京セラ創業者の稲盛和夫はこう言っています。

成功に近道はないが、王道はある。

「人、本、旅」は一つの例示ですが、それらを通じて人脈や新たな知識、思考の多様性といったものを得ることこそ、仕事における王道ではないでしょうか。

                                   

あなたも、王道を歩んで結果を出していきたくありませんか?