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専門コラム 第32話 地場の注文住宅建築会社の存在意義

                                   

寒さに悩まされた日本の住宅。しかし・・・

家を木で建てることを選んだ日本では、四季の移り変わりに適応するとともに高い湿度を克服するためのさまざまな工夫が生まれました。

壁を少なくし、ふすまや障子を開け閉めすることで風通しを良くしたり遮断したりできますし、南側の軒を深く取ることで夏の日差しを遮って室内の温度が上がることを防げます。

また、土壁や畳には湿度の調節機能があります。

もっとも、そうした工夫の多くは暑さ対策であり、冬場の寒さにはこたつや火鉢などを利用するしかありませんでした。

これらはあくまで一部を暖めるだけですから、洋風のセントラルヒーティングに比べると、部屋全体の暖かさの点においては格段に劣ります。

平安貴族が住んだ寝殿造りの建物などは、壁がなく吹きっさらし。

しかも板敷きで、現代のような防寒具などもほとんどありません。

十二単といっても重いばかりでそれほど暖かくはなかったようですから、京都の冬の底冷えは、さぞ耐え難かったことでしょう。

平安時代の人の寿命が30歳前後といわれる原因の一つに、こうした住まいの問題があったのではないかと思われます。

                         

こうした日本の伝統的住居の現実と省エネを考慮して、高断熱・高気密の住宅が推奨されています。

というより、現代ではそれが当たり前になっています。

従来の日本の住宅は欧米に比べて室温が4度程度低いとされ、ヒートショックが多いのもそれが大きな原因と指摘されてきましたから、それも当然でしょう。

ただ、できるだけ自然を生かして住まいの快適さを求める思考も根強いものがあり、日本人の感覚としてそれもうなずけます。

気候風土に適応した住宅を推奨

国土交通省は11月1日、今年度の第2回「サステナブル建築物等先導事業(気候風土適応型)」として2件を採択したと発表しました。

案件を紹介する前に、サステナブル建築物についての説明が必要でしょう。

設計・施工・運用の各段階を通じて、以下のように定義されます。

  1. 建築のライフサイクルにおける省エネルギー・省資源・リサイクル・有害物質の排出抑制を図る
  2. 地域の気候、伝統、文化および周辺環境と調和する
  3. 将来にわたって人間の生活の質を適度に維持あるいは向上させていくことができる建築物

つまり、住みよさを前提として、建物による環境負荷を低減し、地球環境に貢献しようというもので、ここに国が先導事業を行う意味があります。

                

今回選ばれたのは、すまい塾古川設計室(熊本市)の「風のとおり道」とシティ環境建築設計(東京都練馬区)の「流山の四季を楽しむ農家」です。

どちらもそのネーミングだけでも、日本の伝統的な住宅建築の思想を大切にしていることがうかがえます。

それぞれの主な特徴は以下のようなものです。

≪風のとおり道≫

  • 床下の通気性の良い伝統工法、石場建てづくりを採用し、土壁や厚板張りで耐震性を確保
  • 緑と小川を伝ってくる南西の風を取り入れるため、南に大きな開口部を設け、北に開けた窓から出ていく通り道をつくった。また、深い軒庇で日差しを遮る構造に
  • 藁床畳や無垢板の床・壁・天井、漆喰壁を採用し、吸湿効果を高めた
  • ほとんどを熊本県産材とし、廃棄する際も産業廃棄物にならない材料を選択

≪流山の四季を楽しむ農家≫

  • 吹き抜けや引き戸形式の建具、土塗り壁など昔ながらの農家の構造を採用し、自然素材系の断熱材を使用
  • 夏に南風が吹く土地に合わせて南側に大開口部を設け、2階北側窓から抜ける仕組み
  • 冬の日差し取得のため南側と西側に大きな窓を設けるとともに、竹簾を吊って夏の日差しを遮るよう工夫
  • 建物周辺の地表面温度上昇を抑えるため敷地内緑化率を高め、落葉樹を植栽

このほかにもさまざまな工夫を施していますが、日本古来の住宅の良さを強く意識し、同時に住む人の快適さを求めようとしているのがよく分かります。

ただし、こうした住宅は一般的な最近の住宅に比べて建築費は高くつきますから、施主さんが最も重視する費用面を考えると、すべてを採用することは難しいでしょう。

それでも、建てる方からすると、採用するかしないかは別として、素人にはない専門家ならではのアイデア・知識を提示してほしいという気になります。

住宅の寿命や地域差に配慮を

サステナブル建築物等先導事業にはほかに、省CO2先導型と木造先導型がありますが、一方で、経済産業省は「ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)」の普及を目指しています。

家庭での消費エネルギーを創エネや省エネで賄うことで、日本のエネルギー使用の3割以上を占めるといわれる建築部門での1次エネルギーの消費を抑える狙いです。

しかし、これも太陽光発電や蓄電池、LED電球などの設備機器や建物の高断熱化には費用がかかります。

このため、国は補助金を出して普及を進めようとしています。

サステナブル建築とZEHのどちらがいいかという議論は意味がないでしょう。

現代に生きる私たちは、環境負荷の軽減を考えるのは義務のようなものですし、どちらもそれを狙いとしているのですから。

                   

ただ、気になることが2点あります。

1つは住宅の耐用年数、つまり寿命です。

高度成長期までの日本の住宅の寿命は平均30年とみられてきました。

まさに、大量生産大量消費の時代に合った住宅と言えます。

しかし、住む人の経済的負担はもとより、低炭素社会の価値観からみても、住宅はできるだけ長持ちできる仕様であるべきでしょう。

そうすると、できるだけ維持管理や修繕がしやすいものが求められます。

この視点で考えれば、長い歴史の中で完成した伝統的建築に一日の長があるのかなという気がします。

もっとも、伝統的工法を手掛けられる職人さんがどれほどいるのかは心配な点です。

                  

もう1つは地域差です。

狭い日本とはいえ、北海道と九州では気候が大きく異なります。

雪国では玄関に風除け室を設けますし、南九州や沖縄では開放的な造りで風通しを図っています。

そんな日本で画一的な基準を設けることには疑問を感じます。

最初に紹介した日本古来の住宅は、「温暖地型解放系モデル」と言えるでしょう。とはいえ、このモデルの住宅にしても、冬でも快適に暮らす知恵はあります。それが「夏と冬をすみ分ける」発想です。外壁を完全に断熱仕様にして家全体を暖める「寒冷地型閉鎖系モデル」にしなくても、部分的暖房で冬は小さく暮らすという考え方もあるのではないでしょうか。

          

マイホームは、住む人の趣味や価値観によって無数の形があるはずです。

ハウスメーカーの画一的な住宅にはない自由な発想が生かされてこそ、地場の注文住宅建築会社の存在意義があると思います。