専門コラム 第54話 社員1人1人が自社のポリシーのためにしっかり頭を使って動いてくれるようになる。
自信のない自社製品を売っている営業マン
「営業マンの44%が自社製品に自信がない」――営業コンサルタントのカーナープロダクトという会社が行った調査でこんな結果が出たことが、同社ホームページで紹介されています。
詳しく見ると、「自社の商品やサービスに自信を持って営業をしていますか」という問いに対して、
- 「はい」55.8%、
- 「いいえ」20.3%、
- 「どちらともいえない」23.9%。
追跡調査の結果、「どちらともいえない」層も限りなく「いいえ」に近かったというのです。
これに対して、経営者は同じ問いに
- 「はい」76.2%、
- 「いいえ」11.3%、
- 「どちらともいえない」12.5
でした。
経営者と営業マンの乖離については、上は下の苦労を十分には解っていないのか、という皮肉っぽい感想も浮かびますが、営業マンの44%もが自社の製品を「いやいや売っている」という結果に、驚かされます。
同社はさらに、その要因を調べています。
その結果、
- 社内のコミュニケーション不足
- 競合他社と比較して自信が持てない
- 自社の製品が顧客ニーズにマッチしている実感が持てない
――の3つを指摘しています。
コミュニケーション不足は特にメーカーに多い現象です。
「いいものを作っているのだから売れるに違いない」という設計・製造現場に対して、営業マンは「この商品で何をしたいのか分からない」「会社は本当に売れると思って作っているのか」と不満を抱き、そこに大きなギャップが生まれるのです。
開発や製造部門と営業部門に大きな溝があって、開発の意図が営業にまで伝わっていないという現実があるのでしょう。
競合他社との関係では、たとえば「他社より価格が高いから」などと言い訳をしてしまいがちですが、それはとりもなおさず、「価格に見合うだけの付加価値があります」と具体的に顧客を納得させられない営業マンの資質に問題がありそうです。
また、第3の指摘については、アンケートで「貴社の商品は時代や顧客のニーズにマッチしていると思いますか」という質問を同時に行っており、これに対して、営業マンの「はい」は44.9%にすぎず、「いいえ」が26.1%、「どちらともいえない」が29.0%。半分以上が顧客ニーズにマッチしていないと思いながら売っているという現実が浮き彫りになりました。
これらの問題は、実際に競合他社より優れたものを作っているかや、顧客ニーズにマッチしているものを販売しているかというより、営業マンが納得するような意味付けを会社が打ち出せていないことが問題だと、同社は分析しています。
ポリシーが仕事に充実感を与える
ポリシーとは、「目的を達成するための根本的な考え方」あるいは「強いこだわり」「自分が決めた方向性」という意味で使われます。
ポリシーのある商品開発とは、顧客のこんな悩みや不便を解消したい、社会をより良くする一助になりたいという強い意欲と社会的責任感に裏打ちされたものであるべきだと言えるのではないでしょうか。
そうした企業の根本的な姿勢は、企業の社是や経営理念に示されていることがよくあります。
松下幸之助はこう言いました。
企業は存在することが社会にとって有益なのかどうかを世間大衆から問われていますが、それに答えるものが経営理念です。
つまり、経営者は他から問われると問われざるとにかかわらず、この会社は何のために存在しているのか、この会社をどういう方向に進め、どのような姿にしていくのかという企業のあり方について、みずからに問い、みずから答えるものを持たなくてはならない。
言い換えれば、確固たる経営理念を持たなくてはならないということです。
会社が何のために存在するのかという問いかけは、会社が提供する製品についても成立します。
というより、何のための製品かがはっきりしないものが売れるはずもありません。
したがって、製品にポリシーがあるのは当たり前なのです。
そして、そのポリシーを社会貢献や人々の幸せといったところに置く企業は多く、名のある経営者の多くも同様の心構えを言葉として残しています。
たとえば、アップルの創業者、スティーブ・ジョブズはこう言いました。
顧客はより幸せでより良い人生を夢見ている。製品を売ろうとするのではなく、彼らの人生を豊かにすることを考えよう。
渋沢栄一にはこんな言葉があります。
一個人がいかに富んでいても、社会全体が貧乏であったら、その人の幸福は保証されない。その事業が個人を利するだけでなく、多数社会を利してゆくのでなければ、決して正しい商売とはいえない。
正しいポリシーを持てば、仕事も楽しく充実したものになるでしょう。
それが自分の生きがいになれば、こんな幸せなことはないと思います。
現場との乖離を生むコミュニケーション不足
それなのに、なぜ営業マンにそのポリシーがしっかり根付かないのでしょうか。
答えの一つが、冒頭のアンケート調査に現れています。
自社製品に自信を持っているかの問いに、経営者は76.2%が「はい」と答えています。
しかも、経営者の場合、「どちらともいえない」は、大半が自信を持っているに含まれるため、実に営業マンのほぼ倍の9割近くが「はい」と答えているのです。
この大きな隔たりを生む背景にもコミュニケーション不足が指摘されます。
トップが自らの理念やポリシーを、機会あるごとに口にして社員に浸透させるという取り組みが足りないのではないでしょうか。
最大の臆病者は、自分がどういう立場を取っているのかを部下に知らせない管理者だ。
良きビジネスリーダーは、ビジョンを創り出し、それを明確な言葉にする。
そしてそのビジョンを情熱的に保有し、容赦なくそれを実現に向かわせる人間である。
どちらも米ゼネラル・エレクトリック社の最高経営責任者を務め、その実績から「伝説の経営者」とうたわれたジャック・ウェルチの言葉です。
臆病であるかどうかは別にして、「こんなことは言わなくても分かっているだろう」と考えてはいないでしょうか。
さらに言えるのは、社員教育がしっかり機能しているかです。
理念やビジョンをただ唱和させるだけで事足れりと思っているなら、不十分です。
現実の仕事に即して教え、喜びを感じさせるようにしないと、なかなか身につくものではありません。
現場の声を聞けば、取り組むべきことが分かってくるはずです。
あなたがポリシーを持っているのならなおのこと、社員1人1人が自社のポリシーのためにしっかり頭を使って動いてくれるようにしたくありませんか。