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専門コラム 第86話 セールスは聞き役に回るほうがうまく行く【後編】

 

前回のコラムで「セールスは聞き役に回るほうがうまく行く」という話をしました。

その中で、在り来たりな顧客情報を取得することも大事なのですが、営業に求められるのは、情報から導かれる「事実と思しきもの」にも目を向けることだと述べました。

 

つまり一歩先を行く「深読み力」のようなものが、いわゆる「ヒアリング力」ということです。

 

それに長けた営業は、間違いなく顧客から信頼され、結果的に成績も安定します。そして、社内の優秀な営業はほとんど漏れなく、高度な「ヒアリング力」を持っています。

 

しかし話がやや観念すぎましたので、今回は実際の住宅営業の現場で使う「ヒアリング力」を例示してみることにしました。皆さんの参考になれば筆者も嬉しく思います。

 

セールスは聞き役に回るほうがうまく行く【続編】

質問を通して顧客の潜在的な悩みを察知する

 

実は今回のコラムと似ている内容について、「【専門コラム 第22話】お客様からの質問」でも触れています。

 

そして【第22話】の最初の見出しの後半で「営業の仕事とは、商品やサービスを通して顧客の潜在的な悩みを解決すること」と述べています。

 

このコラムで取り上げる「ヒアリング力」をより分かりやすい言葉で置き換えると、「顧客の潜在的な悩みを聞き取ること」に他なりません。

 

そして【第22話】でも書いていますが、「顧客の潜在的な悩み」は、たいてい聞き逃してしまうぐらい「何気ない質問」のカタチで出てきます。

そのため、注意していないとうっかり聞き逃すことも多いのです。

 

私自身も住宅営業をしていた頃、「後から思い返すと、この質問の意図にもっと早く気付いていれば、折衝や商談の形勢が変わっていたかもしれない」と感じた事が何度かあります。

また、そのことに気付いてからは、それほど重要とは思えない質問や発言でも、必ず思い返し顧客が言わんとした真の要望や悩みを反芻するようになりました。

 

おそらく、トップ営業マンと言われる方々の多くも同じようにしているものと思います。

 

大切なことなので、もう一度「要点」をリピートしておきます。

• 潜在的な悩みは、聞き逃してしまうぐらい「何気ない質問」のカタチで出てくる。

• 早く気付いていれば、折衝や商談の形勢は変わっていたかもしれない。

• それほど重要とは思えない質問や発言でも、必ず思い返し顧客が言わんとした真の要望や悩みを反芻する。

 

【第22話】は、本コラムの前置きのような内容となっていますので、あらためて読み返して頂けると幸いです。

 

工法につての質問はすでに優勢な競合がいることが多い

 

では、実際に質問を例示してみましょう。

 

Question 1 :「ところでそちらでは、ツーバイフォー工法の取り扱いはしていますか?」

木造軸組工法の住宅を扱っている工務店に、上記のような質問が寄せられたと仮定します。

 

この質問が来たら、残念ながら初めからツーバイフォー工法の競合他社が入っているケースがほとんどです。

 

しかもツーバイフォー工法の競合はかなり優勢です。

と言うのも一般的にツーバイフォーの住宅は、温熱環境の面でも耐震性の面でも、一般的に軸組工法の家と比べてメリットが多くなるからです。

 

言うまでもなく先にお客様がツーバイフォー工法の会社の話を聞いている場合は、工法のメリットを散々吸聴されているはず。

そのため、よほどうまく対処しなければ形勢は変わりません。

 

なので、この質問が来たらツーバイフォーの取り扱いの有無や、工法の違いを説明するだけでは不十分です。

 

ただし「顧客の潜在的な悩み」が「工法の違いによって、聞かされているような差が出るものなのか知りたい」ということなら、まだ勝ち目はあります。

このとき、注意すべきポイントは、他社工法の悪口を絶対口にしないことです。

 

その上で「最近では木造の建物でもモノコック化が進んでおり、ツーバイフォー工法と変わらない面での強度、あるいは性能実現を採用している」ことをあくまで公平に伝えましょう。

そして出来るなら自社の平均的なC値とUa値を明示することです。そうすることで最低でも、提案プランまで検討してくれる可能性が残されます。

 

またお客様の要望によってですが、展示場以外の建物(実際にオーナー様がいらっしゃる住まい)も見学できること、またその際、実際の性能の良さも体感できる事を説明できれば、可能性はもっと高くなります。

 

逆に展示場にいらした目的が、競合の「当て馬」にされていると分かったら、やんわりとお断りを入れるのもひとつです。

 

特に自社の平均的なC値(1.0 以下)とUa値(0.46 以下)、さらに耐震等級(トレンドは 3 )を明示できる工務店は大概忙しく、「当て馬」目当てのお客様にわざわざ時間を割いている余裕はほとんど無いはずです。

 

いずれにしても営業マンは、ツーバイフォー工法を扱っているとか、木造軸組工法はツーバイフォー化しているなどと、呑気に単純な答えを話さないよう十分注意してください。

 

営業も「間取りの傾向」に敏感になっておく!

 

次のような質問が来たら、あなたならどう対応するでしょうか。

Question 2 :「スキップフロアって高くなりますか?」

 

この質問をしたお客様は 2020 年の 1 月後半に移動展示場へ来場し、ようやくこの 8 月にプラン依頼をくださった方との想定です。

 

この質問があったら、多くの新人営業は「スキップフロアを絡めた間取りは相対的に高くなります」と真面目に答えるかもしれません。

もちろん、そのように事実を伝えることは必要なのですが、さらにスキップフロアに興味を示された理由も聞き出したい場面です。

何故ならこのお客様は、コロナには関係なく、仕事の関係でリモートワークが必要な環境の方かもしれないからです。

 

仮にそうではなくても、その後に起こるパンデミックにより、私たちの仕事環境は激変しました。

今ではリビングの広さを多少犠牲にしても、ある程度の密室空間を間取りに取り入れたい方は多くなったはずです。

 

1 月後半の時点で、ウィズ・コロナ下の仕事環境まで深読みするべきとまでは言いません。

それでも間取りの傾向として、リモートワークの必要性はすでに語られていました。

また牌は小さいかもしれませんが、Pinterest でも「ワークスペース」「soho」などのタグは、業界のインテリア関係者から現在も変わらず注目されています。

 

優秀な営業であれば、「きっとこのお客様は、通常よりプライベートなワークスペースに関心があるのだろう」と目星をつけ、見込み客の育成に取り掛かるでしょう。

 

例えば、「スキップフロアをキーワードに、新型コロナ時代の住環境の変化についての特集を組み、ニュースレターで定期的なフォローを続ける。」などです。

 

確かに新人には少々ハードルが高くなります。筆者も随分と苦労しましたのでよく分かります。

しかし「何が住宅セールスの明暗を分けるか」初めから分かっていれば、苦労の感じ方も違うでしょう。

 

セールスは「どのように喋るか」ではありません。相手に「いかに気分良く喋ってもらうか」が重要なのです。

 

繰り返しますが、「セールスは聞き役に回るほうがうまく行く」というのは本当です。