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専門コラム 第313話 「パワーレス」営業のチカラ【前編】

 

アダム・グラント著、楠木建 監訳『GIVE & TAKE: 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房 2014年1月25日)という本を先日読み終えました。2014 年に出た本なので、読者の中で記憶されている方がいるかもしれません。

今日はこの本について、気になる箇所がありましたので情報を皆さんとシェアできればと思います——なお、内容も実に豊富なこともあって、続編も考えております——。

ただ最初に断っておきますが、『GIVE & TAKE: 「与える人」こそ成功する時代』は、いわゆる営業の専門書でも、マーケティング系のビジネス書でもありません。

ではこの本は何について書かれた書籍なのでしょう?

実はこの本、人間を 3 つのタイプ

• テイカー(真っ先に自分の利益を優先させる人)

• マッチャー(損得のバランスを考える人)

• ギバー(人に惜しみなく与える人)

に分け、これまで当たり前とされた「ギブ&テイク」の常識が、原理原則どおり機能するか、様々な職種で実証例を上げてみせた、いわば社会心理学書です。

特にサブタイトルにもなっている『「与える人」こそ成功する時代』というのは、本書が最初出版されたアメリカより、日本のほうが受け入れられやすい考え方かもしれません。 そうしたことを踏まえて、早速、内容の方に進んでいきましょう。

  

「パワーレス」営業のチカラ【前編】

著者のアダム・グラント氏について

本題に進む前に本書の著者、アダム・グラント氏について、簡単に触れておきます。

グラント氏は 1981 年生まれで、今年(2021年)で 40 歳。専門は組織心理学を研究する学者(大学教授)です。この年齢でペンシルベニア大学ウォートン校教授といいます。しかも彼は同大学史上最年少の終身教授ですから、いかに将来を嘱望されているかが分かるでしょう。

それもそのはず、グラント氏は『フォーチュン』誌の「世界でもっとも優秀な40歳以下の教授40人」、『ビジネスウィーク』誌の「Favorite Professors」に選ばれるなど、各界からの評価も高い方のようです。

もちろん活動の範囲はアカデミックな場面にとどまらず、「グーグル」「IBM」「ゴールドマンサックス」などの一流企業にもコンサルティングや講演を広げています。なお本書に書かれた内容には、これら企業のコンサルティングや講演活動の過程で、少しずつ肉付されたものが含まれていないかと考えてしまいます。というのも本書はもとより当のグラント氏の研究は、実証例が実に豊富だからです。

監訳者の楠木建氏(一橋大学大学院国際企業戦略研究科【ICS】教授、経営学者。1964 年東京生まれ)も指摘していますが、グラント氏の真骨頂は、議論の進め方が豊富な実証研究に立脚しているところにあるようです。

今回コラムで取り上げる『PART 5 「パワーレス」の時代がはじまった——「与える人」の才能——④「強いリーダーシップ」より「影響力」』においても、実在する数名のセールスパーソンを例として上げています。 はじめに登場するのが、ビル・グランブルズという典型的な「ギバー(人に惜しみなく与える人)」です。

   

典型的なギバーは「質問力」で並みのセールスの数倍稼ぐ!

ビル・グランブルズは、ケーブルテレビネットワーク「HBO」の副社長を経て、世界的な映像配信会社「TBS」の社長に就任。現在はMBA保有者にリーダーシップの指導や、仕事上のアドバイスをしながらリタイアの日々を送っています。

そんな彼も 1970 年代の「HBO」時代、営業所の開設で若手セールスマンとして駆り出されていた頃、「質問をする」ことでセールスの活路を見いだしたと言います。そして「質問力」を武器に、並みのセールスの 4 倍の契約を獲得しました。

あるときグランブルズ氏の勧誘の電話を聞いて、ある顧客がこう言ったよです。

「あなたは本当にお話が上手ですね」

といった。

それを聞いて、グランブルズは笑った。

「私はほとんど何も話してませんよ」

「質問力」とは言い換えれば、営業は喋らず、顧客に話をさせるという方法です。そして昨年このコラムでも盛んに取り上げた「営業は売り込んではいけない。むしろ効果的な質問を繰り出し、ときには黙ることも必要」とも重なります。

営業にとって「質問力」や質問をする重要性は、以前より浸透はしたようです。それでも営業の現場では、重要なことを伝えようとするあまり、顧客より多く話す営業マンは、依然として少なくないようです。しかしグランブルズ氏のような典型的なギバーは、自然と持ち前の「ゆるいコミュニケーション」を駆使し、人の何倍も契約を獲得します。

本書でもそのことについて、

質問をして、自分自身から学ぶ喜びを教えてくれるのが、人と知り合いになることに関心をもつギバーなのである。相手に話させることで、ギバーはその人について知ることができるので、どのように売り込めばいいのかもわかるのだ。

と、心理学者ジェームズ・ペネベーカーの解説を引用しています。 このことは、これまでの会話を中断し、自分ばかりが喋ってしまうテイカーより、人と知り合いになることに関心をもつギバーのほうが、より営業に向く性格だということが分かります。

 

オートクラインを使えばもっと効率的に営業が完結する

またこれと一緒に思い出していただきのが「オートクライン」です。

コーチング用語としての「オートクライン」とは、自分が話したことば(内容)を自分で聞くことによって、自分が考えていたことに気づくこと。

[オートクライン [autocrine]:コーチング用語集]より抜粋

私たちは本来説得されることを嫌います。もっというと人の話に耳を傾けているようで、その実、まったく聞いてはいません。買う気などこれっぽっちもない営業の話など、ほとんどの方が聞いていないのに等しいのです。

そうしたなか、唯一耳を傾けるのは「自分が話した言葉(内容)を自分で聞くこと」、つまり自分が考えていたことに気づくことです。したがって優秀な営業ほど、無意識に見込み客に語らせようと、効果的な質問を投げ掛け、ある段階では完全に沈黙しています。これを営業やコーチングでは「オートクライン」と言います。

営業スキルが高いギバーはオートクラインの名手です。

したがって「相手に話させることで、ギバーはその人について知ることができるので、どのように売り込めばいいのかもわかる」のですが、それと同時に「オートクライン」を使えば、相手にほとんど売り込まずセールスが完結してしまいます。

なお本書は組織心理学をもとに書かれた学術系ビジネス書です。それだけに此処で紹介したギバーという存在が、いかに営業向きなのかが、客観的に理解できるでしょう。 次週は女性 2 名のギバーによる、眼鏡販売店での「驚きの実験」についてみていきましょう。

  

  

   

記事提供:経営ビジネス相談センター(株) 代表取締役 中川 義崇

 

弊社は、日本で唯一の『営業マンのための人事考課制度』を専門的に指導するアドバイザリー機関です。

営業マンの業績アップを目的とした人事考課制度を構築するための指導、教育・助言を行っています。

また、人事考課制度を戦略的に活用し、高確率で新規顧客を獲得するための方法論を日々研究しています。