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専門コラム 第73話 自分のやり方に共感を得ながら仕事をしていく

  

コロナ禍で見えてきた脆弱性

新型コロナウイルスで始まり、コロナ禍で暮れた2020年。

今年もまだまだ厳しい状況は続きそうです。

ワクチンが唯一の光明と言えそうですが、効果が出てくるとしても早くて年後半。

少なくとも今年いっぱいは、新型コロナと付き合っていかなければならないでしょう。

 

2020年の「今年の漢字」も、コロナ禍を受けた「3密」の「密」。

2位、3位も「禍」「病」とコロナ関連が占めましたが、それも当然のことでしょう。

 

 

ただ、私はそれ以上に、世界ではびこる「分断」や「フェイクニュース」といった言葉が気になります。

それを象徴するのがアメリカのトランプ大統領ですが、日本でも決して無縁ではないことが、コロナ禍の中で浮かび上がってきたように思います。

 

「分断」や「フェイクニュース」の根底にあるのは、自分とは異なる考え方や意見を認めようとしない偏狭な正義感や自分勝手さです。

コロナ禍で広まった「自粛警察」とか、改めて浮き彫りになった「同調圧力」といった日本社会の特性が、正しい知識に基づく議論や多様性に背を向けることにつながっているように思えるのです。

 

そこには、人と人とのつながりを強固にする寛容や中庸、あるいは想像力や共感といった人間関係の潤滑油となる精神的活動が軽視または無視されている現実が透けてきます。

 

つまり、すべてを経済的価値観で判断する傾向が強くなった社会で、分かり合おうとする気持ちやそのための努力が、いつのまにかないがしろにされるようになっているように見えるのです。

 

  

正直がもたらすもの、正直者が気を付けるべきこと

分かり合うためには、思いやりの気持が必要でしょうし、良好な人間関係を築く大前提として、正直であることは大切なものの一つなのではないでしょうか。

 

国民的人気を誇ったイギリスの名宰相、ウインストン・チャーチルはこう言っています。

打算的な人がどれほど世の中で失敗の実例を示しているか、驚くばかりだ。

心の最善の激励に従い、日々正直に行動することが、世間的な成功にさえも達する確実な道だ。

 

正直であることは経済的な成功をももたらすと言っているのです。

300人以上の欧米人の成功談を集めた「自助論」で知られるイギリスの作家、サミュエル・スマイルズにもこんな言葉があります。

古いことわざに「誠実正直は最善の処世術である」とある。

まさにこの言葉通り、日常生活において正直はあらゆる利益を生む源である。

 

一方で、子どものころに患った結核によって片目、片耳が不自由でありながら「文壇の大御所」と呼ばれるまでの高い評価を得、さまざまな警句を残した18世紀イギリスの文学者、サミュエル・ジョンソンはこう言っています。

知識なくして正直なるは薄弱にして用をなさず。

正直ならずして知識あるは危険にして恐れるべし。

 

正直とは自分の気持に嘘をつかないことと言えるでしょうが、それも正しい知識がなければ、何の説得力も持たないということでしょう。

 

また、「ローマ人の物語」で知られる作家の塩野七生は次のように指摘しています。

正直に本心を吐露すること自体は悪くない。

だが、それをしていいかよくないか、してよい相手かそうでないか、の違いは厳として存在する。

 

非常に冷徹な見方のようにも思えますが、世の中の現実を考えれば、これらの言葉にもなるほどと思わせられます。

 

作家の夏目漱石は、「坊ちゃん」の中で、さらに厳しくこう指弾しています。

考えてみると、世間の大部分の人は悪くなることを奨励しているように思う。

悪くならなければ社会で成功はしないものと信じているらしい。

たまに正直な純粋な人を見ると、坊ちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する。

 

ここまで言われると、正直なのも時と場合によりけり、と考えてしまいがちです。

あるいは、時代によって正直の値打ちも変わっていくものなのかと思ってしまいます。

 

しかし、投資家として大成功を収める一方、巨額の資産を慈善活動につぎ込んで尊敬を集めているウォーレン・バフェットの次の言葉は、正直でありたいと願う人々に勇気を与えてくれます。

人を雇うときには正直さと知性、エネルギーと言う3点に着目せよ。そして、いくら知的でエネルギッシュな人物でも、正直でなければダメだ

 

 

正直、誠実さが人望を集める核になる

「正直者が馬鹿を見る」という言葉すらある中で、なぜこれほどまで多くの成功者や偉人らが正直であれと言い、正直さを評価するのでしょうか。

私は、正直が誠実さとつながっているからだと思っています。

 

誠実な態度は相手の心を開き、自分に対する信頼を築いてくれます。

人間関係を広げるうえで欠くことのできない要素であり、事業においても必要不可欠であることは言うまでもありません。

 

大事業というものは、厳しい誠実さの上にだけ築かれるもので、それ以外の何も要求しないのである。

こう言ったのは、一代で鉄鋼会社を大成功させて「鋼鉄王」の異名をとったアンドリュー・カーネギーです。

カーネギーは教育や文化に多くの寄付を行った慈善活動家としても知られています。

 

そのカーネギーの頼みを受けて世界の成功者を研究し、集大成として「思考は現実化する」を著わして成功哲学を提唱したのがナポレオン・ヒルで、そこにはこんな言葉があります。

他人に同調して仲良くやっていくのは簡単ですが、他人の行動に関係なく、誠実さという最高の基準を守り行動できるのなら、あなたは自然に一流の人間に成長していきます。

 

つまり、誠実さを備え、それを生きる指針にしていれば、事業において成功するのはもちろん、人間としても人に恵まれ幸せをいっぱい感じることができるようになるということではないでしょうか。

 

正直で誠実な人間は、だれからも信頼されることでしょう。

その信頼が多くの人を引き寄せます。

それはあなたの生き方、やり方が多くの人の共感を得るからにほかなりません。

 

そんな人間には多くの人が寄ってきます。

そうした人のことを「人望がある」と言うことができるでしょう。

 

福沢諭吉は「学問のすすめ」に、次のような趣旨のことを書き記しています。

人望とは実際の力量で得られるものではないし、また財産が多くあるからと言って得られるものでもない。ただ、その人の活発な知性の働きと正直な心という徳をもって、次第に獲得していくものだ。

 

人とは正直に話したい。

この想いこそが、自分のやり方に共感を得ながら仕事をしていくための肝ではないでしょうか。