専門コラム 第43話 業界の常識を覆した名入れ会社の挑戦と住宅業界
既存ルールを破壊し、変革の原動力となったeコマース
2020年も早や1カ月が過ぎ、カレンダーも2枚目になりました。
どこの会社でも家庭でも、年末に贈られたりいただいたカレンダーの中から、自分の使いやすいものや、写真や絵が気に入ったものを選んで壁に掛けていると思います。
そのくせ、いただいた先の会社名がカレンダーに印刷されていることを、普段は気にもかけないのではないでしょうか。
このようにカレンダーやタオルなどに会社名を印刷する業種を「名入れ」と言います。
名入れカレンダーは明治時代から続いている、今でいうノベルティグッズですが、普段はあまり意識しません。
どこか昭和のイメージがありますが、現在も年間約1.5億本も作られているそうですから、一種の日本の文化になっていると言っていいかもしれません。
その分、名入れ業界は旧態依然としていました。
料金体系が不透明だったり、発注から納品まで1カ月もかかったり。あるいは小ロットでは受け付けなかったりするのが、業界の常識だったといいます。
その業界にeコマース(電子商取引)を持ち込んで常識を覆したのが、元リクルートマンの若き社長が率いる大阪のスタートアップ企業でした。
営業マン不在で取引先は1万社以上に
その会社には営業マンがいません。
発注から納品、清算まですべてインターネットを通じて行うからです。
お客様はネット上に用意された150ものメッセージテンプレートから自分の希望を選んでクリックするだけで、カレンダーやタオルに限らず年賀状やシールなどオーダーメイドの名入れ製品を手にすることができます。
間に販売店や1次卸、2次卸などは介在しませんから、電話番号や住所の間違いなどはまず起こりません。
仮に起こったとしても、責任の所在ははっきりしています。
納期は最短で2日。
カレンダー10本でも受注しますので、街のスナックのママさんでも気軽に頼めます。
もちろん、社名を知られるようになるまでは苦労もありましたが、いったん軌道に乗ると、トントン拍子です。
業界の老舗企業とは歴然とした差がありますから、お客様が次々に寄ってきて、現在では1万社を超えるそうです。
しかも、一度名入れカレンダーを作ると、やめたらあそこの会社は大丈夫かという疑心暗鬼を生むためやめられないという意識が働くそうです。
それもあって、同社のお客様の8割はリピーターといいます。
業界にとってはルールを破る異端児なので、同業他社からは毛嫌いされているそうですが、社長は全く意に介しません。
「無駄を取り除きお客様のタスクを減らしているのですから、お客様にとってもノンストレス。
営業がいなくても売り上げをつくれる方程式のある会社が成功するのです」と話します。
変化に適応したものが生き残れる〝ダーウィン理論〟
古いシステムや業界の慣習に寄りかかって時代に取り残され、あげくに朽ち果てていった企業はたくさんあります。
かつて構造不況業種と呼ばれた繊維業界などは、国際競争力を失って凋落していきました。
そんな中で生き残っているのは、隆盛期には繊維のジャンルには考えられなかったような製品を開発し、新しいマーケットを手に入れた企業です。
繊維に限りません。
デジタルカメラの急速な普及でほぼ姿を消したフィルム業界。
アメリカのコダック社はカメラ・フィルム事業が巨大すぎて時代の急激な変化に対応できずに倒産しましたが、富士フィルムはその技術を生かして医療や化粧品分野に仕事の場を広げ、生き残りました。
森下仁丹は、かつての主力商品である仁丹のコーティング技法を発展させて開発したシームレスカプセルで、食品や医療分野に進出。現在ではこちらが主になっています。
では、住宅業界はどうかと考えていたら、テレビで興味深い放送をしていました。
6畳用のエアコン1台で、まるでセントラルヒーティングのように家じゅうが暖かい3階建てを紹介していたのです。
ポイントは外気の徹底した遮断です。
断熱材を家の外壁と内壁に二重に入れ、窓は引き違いでなく、潜水艦のハッチのように上下に動いて隙間なく密閉できるスタイルのものでした。
以前にも触れましたが、日本の住宅は古来、夏の暑さを回避することに重きを置いていましたから、隙間風があって当たり前。
その名残でしょうか、現在の住宅でもほとんどの場合、冷気が室内に侵入するのを完全には防げないのですね。
密閉したように見えても隙間があったり、熱交換機のように外壁や窓を通じて冷気が入り込む一方で室内の暖かい空気は熱を奪われたりして、暖房効率が悪いのです。
完全暖房の住宅は、通常のものより数百万円工費がかさみますが、暮らし始めてからの光熱費は格段に安くなります。
経費で言えば初期投資とランニングコストの比較の問題です。
この放送を見ていた知人は、住宅建設は人生で最大の買い物だからこそ、初期投資を抑えることばかり考えがちだけど、長い目で見れば、一考の余地があるねと話していました。
お客様の潜在的なニーズに、お客様自身に気づいてもらう
人口減少時代に入り、住宅着工件数が減っていっても、住宅業界がなくなることはありません。
しかし、淘汰は避けられないでしょう。
というより、すでに始まっていると言ってもいいかもしれません。
でも、家に求められる基本は、快適な暮らし、そして、住む人の個性に合って長く住める家づくりです。
そう考えれば、冒頭の名入れ会社のように、すべてをインターネットで処理することは不可能でしょう。
むしろ、面談して好みや注文をしっかり聞き出し、お客様の潜在的なニーズに、お客様自身に気づいてもらうという営業が欠かせないという気はします。