専門コラム 第42話 「地域再生大賞」受賞のNPO法人の取り組みに考える
空き家の有効活用を通して地域の活性化も
地方都市や田舎における空き家の問題を、当コラムでも何度か取り上げてきました。
一人暮らしのお年寄りがなくなり住む人がいなくなった民家が次第に朽ち果て、衛生面で問題になったりや犯罪の温床になったりする危険性が指摘されています。
基礎までダメになってしまうと、台風などの自然災害で倒壊し、隣家が巻き添えを食らう恐れもあります。
この空き家問題に独自の観点から取り組み、管理システムを築き上げて他の自治体にも提供している団体があります。
福井県のNPO法人「ふるさと福井サポートセンター」(ふるさぽ)です。
この団体が、全国の地方紙46社と共同通信が選ぶ「第10回地域再生大賞」を受賞することが決まりました。
ふるさぽの活動で特筆すべきは、単に空き家の紹介事業を行うのにとどまらず、地域の活性化にまで幅を広げて取り組んでいる点です。
また、空き家のリノベーションについても、建設会社や工務店が関与する仕組みを作り上げています。
その活動をまず紹介しましょう。
空き家情報の収集発信をシステム化。建設会社も巻き込む
活動を始めるきっかけとなったのが、土木建築業を営む理事長が「10年余り前から、まだまだ使える空き家の解体を依頼されるケースが増えた」と感じたことです。
空き家の有効活用の方法を考え、移住希望者などを対象に「空き家ツアー」を始めました。
同時に取り組んだのが、空き家調査システム「ふるさぽマップ」の開発です。iPadで物件を撮影してその場からデータベース化。
少し慣れればプロでなくても簡単に操作できますし、物件情報が即座に更新可能ですから、常に最新情報を希望者に提供でき、顧客満足度も高めることができます。
そして、建築の専門チームが活用可能な空き家のリノベーションを提案できるシステムも伴っています。
ここに、建築会社や工務店が関与できる余地が生まれているのです。
専門チームの一つは建設会社内に事務所を設けています。
ふるさぽマップは、調査期間の短縮化を重視しています。
空き家は、人が実際に住んでいる家と比べて劣化が著しく早く進みます。
調査に時間がかかると、調査の最初と最後でかなりの差が生じ、調査の次に一級建築士らの専門家と調査員による評価の精度が落ちてしまうからです。
地元の美浜町では、約400件の調査を2カ月で終えました。
そのうえ、美浜町から空き家調査事業を受託していますので、行政運営にも大きく活用されています。
このほか、「空き家おねだんシミュレーションソフト」を作り、売買や賃貸費用、解体費用、登記の際の費用などが手軽に試算できるようにしています。
また、「空き家決断シート」で、将来のパターンを所有者に丁寧に説明し、一番いい選択に導ける工夫もしてあります。
こうした活動を担うのが、「ふるサポーター」です。
空き家の情報提供や所有者・移住者への助言、サポートケアを行っており、地元の300人を超える人が活躍しています。
一方、地域活性化の取り組みとしては、情報発信力の高いクリエイターに美浜町内の拠点として活用してもらうために空き家を提供。
クリエイターたちは地域住民の一人として地元の人たちと交流して、それらの体験や感じることを発信しています。
また、地域の活動拠点として、古民家を改装してカフェや食堂を運営。
子供からお年寄りまで、地域の人たちの交流が自然に生まれるようになっています。
空き家予備軍にも目配りを
総務省の2018年の調査では、全国の空き家率は13・6%。東京、大阪、名古屋の3大都市圏では計336万戸にのぼり、同圏内の持ち家の20%強に達しました。
野村総研の予測では、建物の除却や住宅用と以外への有効活用が進まなければ、2033年には空き家率が30.2%になると見込んでいます。
空き家が地域に及ぼす影響は、今後ますます深刻化していくのは間違いないでしょう。
地方都市や田舎に限りません。
それだけに、現在の空き家だけでなく、“空き家予備軍”への対応も急がれます。
空き家予備軍とは、その名の通り、ゆくゆくは空き家になることがほぼ確実視される住宅です。
こうした住宅は、まだ人が住んでいる間に対応すると、放置される空き家を減らすことができます。
ふるさぽでは、この点を重視した取り組みも進めています。
これまでの活動で、所有者の早期決断がカギと判断し、個別サポートを行っています。
「空き家おねだんシミュレーションソフト」や「空き家決断シート」はその一環です。
決断にあたっては、人間関係が大きなポイントになるといいます。
このため、全くの他人ではなく、すでに人間関係を築き上げている人に相談にあたってもらい、決断に導く道筋をつくろうとしています。
住宅建設を地域の問題に絡めて考えよう
こうした空き家問題に、地域の建設会社や工務店も関与できるのではないでしょうか。
新築住宅着工戸数はどんどん減っていくと予想されています。
一方で、高断熱・高機能住宅や省エネ住宅は、どの住宅メーカーも似たり寄ったりで、今や、これらの機能面で大きな差をつけることは難しくなっています。
それならば、ふるさぽの取り組みにならって、建設会社や工務店としても、お客様の希望に応える家づくりにとどまらず、自分たちが手掛ける住宅の建築やリノベーションを、地域の問題としてとらえる視点があってもいいのではないでしょうか。
行政や地域社会の要望にも目を向け、地域の人たちとのコミュニケーションを密にしていけば、おのずと新しい存在価値が見いだせるのではないかと考えます。
以前、地域密着の業者なら地元での仕事に手を抜くことはできないと指摘しました。
一つの悪い評判が受注減に直結するからです。
そこから一歩進んで、地域のためになっているという実感を仕事を通じて得られれば、満足感や幸福感はより大きくなり、会社としての幹を太くできると思うのですが、いかがでしょうか。