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専門コラム 第37話 最先端の住宅リノベーションに見る可能性

                                   

「見た目」と同時に「性能」もアップ

リノベーションで生まれ変わった住宅の魅力を競う「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2019」の受賞作品が12日、発表されました。

500万円未満、1000万円未満、1000万円以上、無差別の4つのクラスに応募のあった279作品から、グランプリには500万円未満部門にエントリーした「鹿児島断熱賃貸~エコリノベ実証実験プロジェクト」が選ばれました。

500万円未満クラスからグランプリが出るのは初めてだそうです。

 

この催しになじみのない方も多いかもしれませんが、住宅建設に携わる全国約900社が参加するリノベーション協議会が主催し、今年で7回目。

スタートした2013年は、リフォーム市場が急拡大した年ですから、こうした動きを受けて始まったものでしょう。

 

選考委員の講評を見てみると、この6年間で次第に明確になってきたリノベーションの方向性がよく分かります。

 

審査委員長のLIFULL HOME’S総研所長の島原万丈氏は「スタート当初から耐震補強や断熱改修などの性能向上が施された作品は継続的に出現していたものの、今年はその量と質の高さが飛躍的に高まった」と指摘。

グランプリ作品について「新築基準をはるかに超えるレベルの(断熱)性能を実現しつつ、住宅市場への幅広い波及効果が期待される」と述べています。

500万円未満で実現したことも高評価につながったようです。

 

他の受賞作品の中にも、築35年を超す旧耐震木造戸建て住宅を耐震等級3、HEAT20(2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会)が定めるG2グレードに引き上げたものや、熱量がどれぐらい家の外に逃げやすいかを示すUA値を2.94から0.7まで約4倍、耐震の構造評点を0.58から1.71まで約3倍にアップさせた物件もありました。

 

ただし、性能だけではありません。

 

500万円未満部門最優秀の「我が家の遊び場、地下に根ざす」は、地下室を子供たちのためのライブラリーとシアタースペースに改造し、地下室への階段は秘密基地への入口のようにわくわく感を演出。

1000万円未満部門最優秀の「my dot.-東京の中心で風呂に住む」は、床面積47平方メートルというコンパクトな住戸で、1616サイズのユニットバスをバルコニー側に設置することでバスビューを実現しています。

 

いずれも、地下室、バスという、ありきたりのリフォームに終わりやすい1部分に特化して生まれ変わらせることで、新しい魅力に仕立て上げており、発想の転換や遊び心を感じさせてくれます。

 

低予算でもできる住宅性能の向上

公団住宅や狭小な集合住宅でリフォームがはやり出したのは20年以上前のことです。

この時代は主婦によるDIYが中心で、その内容も性能より「見た目」や「価格」中心だったように思います。

 

ホームセンターで買ってきた壁紙や小物でインテリアの様相を変えて、見違えるように変貌した部屋が盛んに雑誌に取り上げられました。

「断捨離」によって収納や部屋全体をスッキリさせるのも、その延長線上にあると言えるかもしれません。

 

しかし、現代のリノベーションはここまで見てきたように、見た目の良さや個性を際立たせながらも、性能も併せて重視するスタイルに変わってきたと言えそうです。

「見た目はいいけど寒い家」は通用しない時代になってきたのです。

 

さらに言えば、住まう人のし好にもよりますが、植物を暮らしに取り入れたり、家の内と外が心地よくつながる暮らし方を提案したりすることも求められるでしょう。

 

リノベーションの新しい姿を「リノベーション・オブ・ザ・イヤー」でまとめて見せつけられると、既存の住宅ストックの最大の弱点とされる耐震性能や省エネ性能の低さを、低予算を言い訳に見過ごすことは、もはやできないと言いたくなってきます。

低予算でもやりようによっては十分性能をアップさせることはできるのです。

 

世界に後れを取る日本

ところが、こうした性能を重視したリノベーションの進歩が現場で見られる一方で、国は2020年に予定していた、すべての新築住宅で省エネ性能を義務化する方針を撤回し、300平方メートル未満の小規模住宅には適用しないことをきめました。

無期限延期であり、事実上の中止です。しかも、「小規模」とはいえ、300平方メートル未満と言えば、ほとんどの戸建て住宅が対象になります。

 

昨年12月の決定ですので、いささか旧聞に属しますが、あまり話題にはならなかったので、一般市民すなわち施主になる人の多くは知らないことでしょう。

しかし、住宅関係者の間では大いに物議をかもした問題です。中には「時代錯誤」という厳しい批判もありました。

 

なぜなら、国が求めていた平成25年基準(H25基準)はH11基準と同レベルの断熱性能しか要求しておらず、国際的にはとても次世代省エネ基準とは言えない低レベルなものであったからです。

さらに、気密性能の基準はなく、既に大手ハウスメーカーのほとんどは、この基準を満たす住宅を新築しているといわれています。

 

見送りの理由として挙げられたのが、①小規模新築住宅の省エネ基準への適合率が6割前後と比較的低水準のまま②省エネ基準に習熟していない中小工務店や設計事務所などが相当数存在する③2019年10月に消費増税が予定されており、コストのかかる省エネ化を義務化すると住宅投資が冷え込む恐れがある、などです。

 

確かに、省エネ性能を持たせるには、断熱材はもちろん、ペアガラスや二重サッシ、照明のLED化、ソーラーパネルや蓄電池の設置など、一般的にコストがかかるとみられているのは事実でしょう。

 

しかし、それ以上に、一般市民や小規模工務店などが省エネ住宅について十分な知識を持つまで待ってやろうという意識が強いように思われます。

市民や良質な住宅を造っている工務店などを馬鹿にしたような話ではないでしょうか。

 

プロであるなら施主さんの気持ちを動かして

先週開かれたCOP25(国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議)で、日本は温暖化対策に消極的として、国際NGOから不名誉な「化石賞」を贈られました。

COP3で京都議定書をまとめあげた日本はどこに行ったのかと思うほどの後退ぶりです。

 

国内事情にばかり目を向けた国の遅々とした歩みは、独立独歩などと開き直るのも恥ずかしいことですが、省エネルギー住宅の義務化撤回にも共通する姿勢を感じます。

エネルギー事情の激変に対応するとともに地球環境の維持のためには、すべての分野で省エネ化は待ったなしなのに。

 

低コストで耐震や省エネの性能アップを図る取り組みは随所に見られるようになってきました。

当コラムでも再々指摘してきましたが、住宅建設のプロである方々には、自ら進んで省エネ提案をして施主さんの気持ちを動かしてほしいと思わざるを得ません。