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専門コラム 第11話 自分を磨いて他人を思いやれる人間になる

「一期一会」とリファラル採用

企業の人事担当者の間で最近、リファラル採用という言葉が広まっています。「リファラル」とは英語で紹介・推薦という意味で、リファラル採用というのは、社員や会社とかかわりの深い人から会社に適した人材を紹介してもらうものです。

紹介する方は当然、その会社がどんな人材を欲していてどんな人材が向いているかを承知しています。しかも、会社との関係から、会社にとって本当に役立つ人材を推薦しようとしますから、ミスマッチが少ないというのが最も大きなメリットと言えるでしょう。

アメリカで広まった採用方法で、欧米では既に、最も多い採用経路になっているといいます。国内でも2017年に人材紹介会社が実施したアンケート調査で、回答した501社のうち、リファラル採用を制度化しているところは33%、「リファラルによる中途採用をしたことがある」と答えた企業は62%にのぼりました。「定着・活躍のしやすさ」がその理由のトップで、「採用コストの低減」「採用成功確率の高さ」などが続きます。

関係者による紹介・推薦というと、古くから行われてきた縁故採用もこれに当たります。「コネ入社」とも呼ばれますが、このような形で入ってきた社員が、仕事はできないくせに大きな顔をしてひんしゅくを買ったり、チームの輪を乱したりして会社の足まで引っ張るという事例が散見されます。
逆に、実力によって成果を挙げてもコネのおかげだと陰口をたたかれて、組織に受け入れられないという人もいるでしょう。

しかし、従来の縁故採用とリファラル採用には大きな違いがあります。縁故採用が企業トップや大口取引先といった、いわば会社に対して一定の権力を持った人の口利きであるのに対して、リファラル採用は基本的に権力とは無縁です。それだけに、透明性が高く、縁故採用に見られるような理不尽は少ないと言えます。

一方、リファラル採用で紹介してもらう方にしてみたら、いつどこで自分の成長や飛躍につながる人間関係が生まれるか分からないということです。だからこそ、「一期一会」という言葉が今も、人間関係を考えるうえでの要諦の一つとして残っているのでしょう。千利休にもこんな言葉があります。

小さな出会いを大切に育てていくことで、人生の中での大きな出会いになることもあります。

自分の信頼度や好感度を高めてこその紹介営業

こうした人間関係を、採用ではなく営業に生かす手法があります。

先週の当欄で、事業成功のための集客について触れました。サプライズと、「人々の潜在的な欲求、心の願いに働きかける」ことの大切さを指摘しましたが、集客しなくても顧客を獲得する方法が人間関係を生かすことで、一般的には「紹介営業」と呼ばれます。つまり、成約に至ったお客様から友人知人を紹介してもらうやり方です。

商品を気に入って購入してくれたわけですから、これほど強い後押しはありません。健康食品やサプリメントにおいてもよく見かけますね。使ってみた感想や効果をこれでもかとばかりに並べ立てる広告が。

薬機法や景品表示法などの広告規制を考慮して「個人の感想です」などと断わりが付いていても、同じように悩んでいる人は、ついつい目が引き寄せられるでしょう。テレビでも新聞でも頻繁に見かけるのは、やはり宣伝効果が高いからでしょう。

ただし、商品さえ良ければ評判になって、放っておいても顧客が得られるのかと言うと、そうでもありません。商品に対する満足度と同時に、セールスマンへの信頼度や好感度が高くなければ、積極的に周りに広めてくれません。というより、少しでもセールスマンやその会社の対応に不快感を抱けば、そのお客様自体離れていくことになるでしょう。

まさにその点が、リファラル採用と共通するポイントです。いくら親しい間柄であっても、いやむしろ、親しい間柄であればあるほど、自分が魅力を感じない会社に大切な人を紹介しようという気にはなれないでしょう。

大切なのは「働きがいがある」「挑戦させてくれる」ような魅力ある会社であること。セールスマンならば、人を引き付け、周りの人から力になってあげたいと思ってもらえる自分になることです。

そのためには何が必要か。アメリカの作家でビジネスコミュニケーションスキルに関する著書「人を動かす」を残したデール・カーネギーはこう言っています。

あなたが明日出会う人々の4分の3は「自分と同じ意見の者はいないか」と必死になって探している。この望みを叶えてやるのが、人々に好かれる秘訣である。

嘘でない心からの賞讃を与えよう。心から賛成し、惜しみなく賛辞を与えよう。
相手は、それを心の奥深くしまい込んで、終生忘れないだろう。
与えた本人が忘れても、受けた相手は、いつまでも忘れないでいつくしむだろう。

これらの言葉を、単に人を取り込むテクニックだと考えるのは間違いでしょう。相手の立場に立った深い心と心の交わりこそが、相手の気持ちを開かせ、本当の意味での親友なり応援者になってくれるということだと思います。

結果を求める前に人間関係の構築を

ここまで読んできたあなたが、気になることはすぐに実行に移したいタイプであるなら、結果ばかりを追い求めたり、唯我独尊になって自分の考えだけで突っ走ったりしないように気をつけるべきでしょう。

思ったことを行動に移すことは、決して悪いことではありません。「Never put off till tomorrow what you can do today(今日できることを明日に延ばすな)」という言葉があるように、先延ばししていいことはあまりありません。

ただし、ビジネスにおいては常に相手、お客様がいます。自分が思い立ってとった行動が、相手にどう受け止められるかを、一呼吸おいて考えた方がいいと思うのです。

自分の力に合うことだけをしろ。その他のことは、おのずと道が開けてくるまで待て。

小説家で画家でもあり、「仲良きことは美しき哉」などで知られる武者小路実篤の言葉です。ドイツの文豪、ゲーテもこう言っています。

すべてを今すぐに知ろうとは無理なこと。雪が溶ければ見えてくる。

何事でも、事を為そうとすれば自分を理解し、時に励まし、時に盾になってくれ、ともに歩んでくれる心の通い合った友が必要です。ビジネスなら、そんなお客様です。

自分を磨いて他人を思いやれる人間になって、集客しなくても新しいお客様を紹介してもらえるような人間関係を築き、注目を集めるような成果を挙げたくありませんか?