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専門コラム 第38話 木造住宅離れが進んでいる!

各地で広がる「木育」の取り組み

福井県の山間部に位置する池田町に、山林をアトラクションにした「Tree Picnic Adventure IKEDA」という壮大な遊び場があります。

元キャンプ場の施設や周辺の森などを生かしたアドベンチャーパークや、谷に吊るした鋼線にぶら下がって森の上を滑車で滑り降りるメガジップラインが人気で、都会のアミューズメント施設とは全く異なる、自然を満喫できる遊びが体験できます。

人口減少に歯止めをかけたい町が取り組む「木望のまちプロジェクト」の一環で、他にも子どもたちが多様な木のおもちゃと出会える「おもちゃハウスこどもと木」や、子どもも大人も一緒に木を使ったモノづくりを楽しめる「Wood Labo IKEDA」なども整備しました。

町の92%を山林が占め、遊びや学習の素材集めには苦労しません。

これらを有効活用することで、森林環境の保全・育成や移住・定住の拡大を図り、地域循環型経済を作り出して若者の雇用を掘り起こすのが狙いです。

 

同じような事業は全国各地の自治体で行われています。

長崎県では、県産木材の利用促進を図って「ながさ木・なごみの街づくり事業」を進めています。

銀行の待合室やホテルのレストランなど、人の目につきやすい民間のスペースを木質化したり、県産木材を使った木製品を置いたりする場合に補助金を交付してバックアップするものです。対象施設は学童施設や調剤薬局などにも広がっています。

 

こうした取り組みのキーワードや森と木です。

その思いは、池田町の「木望」や長崎県の「ながさ木」というネーミングに示されています。

ベースになっているのが、北海道で15年前に誕生した「木育」や、木材利用の普及啓発を目的とした林野庁の「木づかい運動」です。

「木育」は、子どものころから木に親しみ、身近で使っていくことを通じて、人と森や木とのかかわりを主体的に考えられる豊かな心を育てようという、新しい教育活動です。

背景には、住環境の変化やプラスチック製品の普及などで木製品が生活の場から著しく減少しているという状況があります。

日曜大工や木工芸を趣味にする人も高齢化でどんどん減ってきており、こうした大きな流れの中で、日本人の暮らしを支えてきた里山などの森林資源の荒廃が進んでいることへの危機感もあります。

それだけにとどまりません。

こうした生活環境やライフスタイルの変化は、住宅に対する個人の嗜好にも影響を及ぼしているのです。

 

若い人で進む木造住宅離れ

内閣府が先月公表した「森林と生活に関する世論調査」で、住宅の新築や購入の際に木造を選びたいと回答した人が73.6%にとどまり、1989年の調査開始以降初めて8割を切って過去最低を記録しました。

なかでも、若い人の木造離れは顕著です。

30歳以上がほぼ70%を維持しているのに対し、18~29歳では59.1%にすぎませんでした。

インターネットの書き込みを見ても、木造は寒い、地震や災害に弱いといった無知や思い込みからくる意見が数多く見受けられます。

当然のことながら、木造でも断熱や耐震をきちんとすれば十分に強度は保てますし、快適な暮らしを送ることができるのですから。

法隆寺の五重塔などは1400年以上もあの姿のままで立ち続けているのです。

また、最近の住宅は、目に見える部分での木材が減っています。

和室が1部屋もない家が増え、構造材の上をクロスで全面的に覆う大壁工法が主流だからです。

このため、木造である必要性を感じていないのかもしれません。

また、太い木材は乾燥が進むと繊維に沿ってひび割れることがありますが、強度には何の問題もないにもかかわらず、ひび割れる音が響くと欠陥住宅だと騒ぎ立てる人もけっこういるそうです。

そんな話を聞くと、日本人として嘆かわしくなります。

私たちの祖先はいろいろな建築資材の中から、木材を選びました。

第一に、周りに木が豊富にあり、材料に事欠かなかったからでしょう。

そして長い歴史の中で、木材の良さを最大に活かした住宅の作り方を完成させていったのです。

建物に限りません。

伝統工芸には木工製品が数多くあり、それぞれが深い味わいを醸し出しています。

こうして日本人は「木の文化」を育んできたのです。

ところが、木はプラスチックや金属にとって代わられ、そのくせ表面には木目を印刷したフィルムが貼られるという現実を見ると、嘆く以前にばかばかしささえ感じてしまいます。

「木の文化」はどこへ行ったのでしょうか。

情操を育む木を生活の基盤に

学童で木を使っていて思うことはたくさんあります。

まず木をつかうと気持ちよくなりがんばろうと思います。

とくに私は人一倍自然が大好きです。

木を使うと美しくなって自然いっぱいで、とてもうれしいです。

それにとてもきれいなので、コンクリートよりすごしやすく、学童が大すきになります。

私がこの学童に来た1つの理由です。

学童を支えてくれて私は、とてもこの木に感謝しています。

たのしく・うれしく・おもしろくしてくれる支えにもなっています。

本当にありがとうございます。

これは長崎県の「ながさ木・なごみの街づくり事業」を活用した学童施設で過ごす児童の感想文です。

これを読むと、木は間違いなく情操教育にも役立っていることがうかがえます。

それは、木もまた生き物だからでしょう。

八百万の神と言うように、日本人は特定の宗教にこだわることなく、あらゆるものに神は宿ると信じてきました。

中でも木には霊が宿ると考え、古木や巨木を信仰の対象とした例は全国各地に見られます。

木が持つ温かみや親しみやすさは、石油から生み出された化学製品や金属では考えられないものです。

それを感じられれば、人に対する思いやりも自然と芽生えるのではないでしょうか。

そして、家は暮らしの基盤なのですから、できるだけたくさんの木を家に使ってほしいと願わずにはいられません。

もちろん、趣味や嗜好は人それぞれです。

さまざまな情報を得たうえで木材以外を選択するなら、それを否定するものではありません。

また、木工品にしても木のいいものは高くつきます。

しかし、使い捨てができる利便性だけを重視するのでしたら、ちょっと立ち止まって考え直してほしいと思います。

構造材を何にするかは別にして、住宅に木を取り入れる方法はいくらでもあるのですから。

木育はそうした考えを育むきっかけになりうるでしょう。

木育がもっと広がり、情操豊かでやさしさと思いやりにあふれた子どもがいっぱい育っていくことを願っています。

ひいてはそれが、木造離れにストップをかけることにもつながることのではないでしょうか。