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専門コラム 第318話 『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版』を読んで

 

先日ようやく決心し、西方里見;著『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版』(エクスナレッジ 2019/6/22)を購入しました。

実はある考えから、今後できる限り書物を増やさない方針を昨年固めて、建築関係の専門書――なかには「彰国社」から出ている木造建築の専門書なども含む――も決意して処分したところです。

それが 1 年もせず、新たな建築関係の書籍を購入するとは……。

自分で何をやっているのか分からなくなってきました。

ただ建築に関する文章も全く書かないわけにいきませんので、どうしても振り返られる書籍のようなものが手元にあると、書き手にとってラクはラクです。そういう経緯もあって、ついにこの本を購入しました。

やっぱり著者がこの分野で信頼できる人ですから、買って正解でした。

特に中盤部に出てくる、小さな平面図(S=1:300)と矩計図(S=1:60)と基本スペックを記載した「作品データ」は、とてもありがたい(!)と感じました。

逆に前著と比較した場合、著者には失礼かもしれませんが、不満な点も若干あります。今日はそうした個人的感想も、包み隠さず書き留めてみたいと思います。

  

『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 令和の大改訂版』を読んで

西方里見氏と『「外断熱」が危ない!』 について

筆者が西方氏を知ったのは、西方氏が『「外断熱」が危ない!(住宅が危ない!シリーズ)』 (エクスナレッジ 2002/11/14)という断熱本を出したことが、そもそもの出会い――と言っても、あくまで読者としての一方的な出会いに過ぎませんが――だったと記憶します。筆者が冒頭で“前著”と指摘した本がまさにこの『「外断熱」が危ない!』です。

この書籍の他にも、主に西方氏は建築誌「建築知識」に断熱の記事を多数寄稿しておりましたし、順序が逆になったかもしれませんが、著者は秋田で自身の設計事務所を経営する一級建築士です。

もっと簡単に言うと、高断熱の住宅設計で西方設計と言えば、知らない人はいないほど全国的に有名な方。あるいは室蘭工業大学の鎌田名誉教授と同じように、この界隈では最も信頼できる断熱設計の第一人者です。

まったく的を得ない紹介で申し訳ないですが、建築実務をやっている方なら、余程の新人の方以外は、大抵ご存知かと思います。

そんな西方氏を一躍有名にしたのは、先の『「外断熱」が危ない!』と筆者は考えています。

この本は、当時話題となった書籍『「いい家」が欲しい。』によって巻き起こった「外断熱」ブームに対し、

 

  • 断熱工法について、誤解されている箇所を、フラットな視点で訂正した本としての評価
  • これとプラスして、住宅の断熱工事、気密工事を詳しく解説した本としての評価

 

が相まって、主に実務界や「いい家」が欲しいと望む建主の間で、当時話題となりました。

ちなみに『「外断熱」が危ない!』というタイトルは、明らかに、出版社の意向が多分に加わってのことではないでしょうか。

しかし当時ベストセラーとなったのは『「いい家」が欲しい。』であり、失礼ですが『「外断熱」が危ない!』ではありません。現在でも木造住宅の「外張り断熱」工法のことを「外断熱」というのは、『「いい家」が欲しい。』の影響でしょう。 (そして当の西方氏も『最高の断熱・エコハウスをつくる方法』のなかで、「外断熱」という言い方を、ついに「俗称」として認めています。)

  

ビギナーはこの本だけで断熱設計のすべてを理解するのは無理かも?

ただ西方氏の名誉(?)のために言っておきたいのですが、『「外断熱」が危ない!』という本は、間違っても『「いい家」が欲しい。』を苔下ろすために書かれた書籍ではありません。

前チャプターの箇条書きの箇所でも二つ目に書きましたが、この本は何のハッタリも加えず、高断熱住宅の正しい普及に向けて、西方氏等、断熱設計者の真摯な取り組みを、広く建築業界に伝えようと書き下ろした書物です。そのことは本書を読むと、痛いほど分かるでしょう。

逆に『「外断熱」が危ない!』が、それだけよく書かれた書籍であるため、当時と同じテンションで『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 』を読むと、「あれ、西方先生の本ってこんな調子だっけ?」と、思わず首を傾げてしまうところも正直ありました。

筆者が本書に対して「不満な点」があると言ったのは、実はこういう部分です。ただ本書を読み進めていくと、次第に誤解のようなものは解けていきます。特に桁上断熱やボード気密工法といった、言わば断熱設計の合理化工法について、丁寧な説明をしている点などは、多くの職人さんにも手にとって欲しい本と言えます。

ただ『「外断熱」が危ない!』が発刊された当時は、まだインターネットの普及期だったこともあって、本の書き方も情報量も違って当然です。そのため、ひとつの本に、すべての情報を網羅できるものではありません。『最高の断熱・エコハウスをつくる方法 』で疑問を持たれた場合は、面倒でも新たにネット検索してみることも必要でしょう。

特に断熱設計について初心者が、この本だけですべてを熟知することは多少無理があります。ですので断熱の知識をフォローできる本や情報源が、この本以外にも必要ということは知っておきましょう。

 

日本の建築の未来は明るい?暗い?

また、2009年の次世代上エネ基準の改定で、隙間相当面積の基準が削除されていたことを、実は筆者、この本で知りました――もしかしたら、聞いた記憶もあります。ただ失念していたことは確かです――。

しかし幾ら改定で隙間相当面積の基準が削除されても、気密化を避けて本当の断熱設計は成り立ちません。たとえば気流止めやコンセントボックスの処理など、放っておくと一気に隙間相当面積は上がってしまいます。

また西方氏自身も、C値(隙間相当面積)を断熱性能にかかる数値として、断熱と気密を併せて考えるようにと、本書でも言っています。当然のことです。

ただ振り返ってみてみると、近年の住宅の性能に関する記述で、気密という言葉がすっぽり抜けていることが分かります。

他のコラムでも書いていますが、たとえ隙間相当面積の基準が削除されても、良質な住宅を供給する工務店は、国の規定にかかわらず、気密測定を実施しています。これは正しい断熱工事に気密にこだわることは、必須条件ということを知っているからです。

隙間相当面積の基準が削除された理由が、目指している建物が「省エネだとか性能に無関係」で、たとえば「面倒だ」とか「実施方法が分からない」などと言った、主に怠惰によるものなら、日本の建築の未来はかなり厳しいかもしれません。

  

  

   

記事提供:経営ビジネス相談センター(株) 代表取締役 中川 義崇

 

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また、人事考課制度を戦略的に活用し、高確率で新規顧客を獲得するための方法論を日々研究しています。