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専門コラム 第50話 部下の敬意と信頼を深め、連戦連勝街道を歩み続ける。

清水次郎長と大沢親分に見る親分気質

昔から「親分」と称された人物はたくさんいますが、昔の「親分」には圧倒的な存在感とともに人間的な深みを感じさせる人が多いように思います。

中でも「海道一の親分」と評されたのが清水次郎長。清水湊(静岡県)に一家を構え、大政、小政、森の石松ら「清水二十八人衆」と呼ばれる子分を従えた幕末の侠客で、3代目神田伯山の講談や広沢虎造の浪曲で広く世に知られるようになりました。

 

人を殺して服役するなど、その生涯は決して手放しでほめられたものではありません。

ただ、幕府軍が乗った咸臨丸が清水湊に停泊中に官軍に襲われて全滅した際、官軍をおもんばかってだれも処理しようとしなかった、清水湾内に放置されて漂う幕府軍の死体を「死ねばみな仏でござる。

仏に官軍も賊軍もない」と収容、埋葬した行動に、侠客としての生きざまをうかがい知ることができます。

 

明治に入って博徒の足を洗った後、茶の販路を拡大するため清水港の拡大を訴えたり、山林開墾に奮闘したりしたほか、私塾の英語教育を後援したことなどは、ほとんど知られていないでしょう。

 

近年で「親分」の呼び名がよく似合った人に「大沢親分」こと、プロ野球日本ハムの監督などを務めた大沢啓二さんがいます。TBS系の日曜朝の情報番組「サンデーモーニング」での「喝!」「アッパレ!」が有名ですね。

最初に入った高校は暴力事件で中退。

編入した神奈川県立商工高校で野球を始めましたが、後に「野球をやっていなかったらヤクザにしかなれなかったかもしれない」と本人が言うほどの悪童でした。

 

高校3年の夏の甲子園出場をかけた県大会では、2回戦で不可解な判定が相次ぎ延長戦で敗退。

試合終了後のトイレで出くわした審判を蹴りつけてしまい、学校は出場停止処分を受ける始末。ところが、当の審判が立教大学OBで、「君のような野球がうまくて元気のある選手が必要なんだ」とスカウトして立教大学への入学が決まったというのですから、縁は異なものです。

 

プロ野球の現役生活は10年で終わりましたが、監督稼業は13年に及びます。

その風貌と監督時代やその後の解説者時代のべらんめぇ調の話し方などもあいまって、「親分」の呼び名が定着していきました。

 

プロの世界では7回退場処分を受けていますが、すべてが監督時代。中でも、相手投手がビーンボールを投げたことに激高し、マウンドに突進して相手投手を蹴りつけて退場になるなど、選手やチームを守る格好の退場が目立っていたことも、親分らしいところです。

 

親分肌の人が落ち込みやすい罠

今の社会で親分と言えば、ほぼ暴力団の組長になるでしょうが、親分肌の人ならけっこういそうです。

 

親分肌の人とは、面倒見がよく頼りになる気性の人をいいますが、次郎長や大沢さんを例にとって付け加えれば、信念を持ち決してそれを譲らない、子分のためなら水火も辞さない、大きな包容力を持つ点などを指摘することができるでしょう。

 

よく似た言葉に兄貴肌というのがありますが、こちらは比較的若く、親しみを持てるのに対して、親分肌の人というのは年長で畏怖の対象といったイメージがあります。

 

あなたが親分肌と言われるのなら、会社では部下に信頼され、部下の力をうまく引き出して、上々の成績を挙げてきたことでしょう。

 

ただ、気を付けなければいけないことが2つあります。

まず、あなたの存在感が大きくなりすぎると、敵をつくりやすいことです。

ライバルという意味なら、互いに競い合い切磋琢磨するでしょうからそれもいいのですが、引きずりおろそうという勢力であれば、余計な精力をそちらに注がなければならない羽目になってしまいます。

 

また、敵があなたの活躍をねたむ経営トップであることも考えられます。

その場合、はしごを外されたり、閑職に追いやられたりするという事態も考えられ、難しい対応を迫られることになります。

 

もう1つは、本当にあなたが親分肌なのかということです。

たいていの部下は上に立つものを立てようとします。

上の言うことには従います。その方が楽だからです。

したがって、部下が自分の言うことに従うからと言って、本当に信頼されているかは分かりません。

 

そんな部下におだてられ、祭り上げられて親分肌を演じている「お山の大将」もけっこういます。

自分を客観的に見ることができないのです。そんな人に限って、自分に意見を言ってきたり、指示に従わなかったりすると、突然怒り出し、それ以後は手のひらを返したようにその部下を冷遇するようになりがちです。

 

「君主論」で知られるイタリアの政治思想家で外交官だったマキャベリにこんな言葉があります。

人間が行動する動機には敬愛と恐怖の二つがある。しかし、敬愛を重視しすぎると部下に軽蔑され、行き過ぎた恐怖で支配すると部下の心に憎悪を生む。

部下は上司が思っている以上に、上司のことを冷静に見極めていますから、下手をするとパワハラ告発を受ける可能性があることも意識しておくべきでしょう。

 

さらなる高みを目指して

しかし、あなたが本当に親分肌の人であるなら、仕事をこなせばこなすほど部下は信頼を深め、成長し、より大きな成果を挙げるようになるでしょう。

そのために必要なことは何か。松下幸之助はこう言いました。

人間は本来働きたいもの。働くことを邪魔しないことが一番うまい人の使い方だ。

  

クリミア戦争で活躍し近代看護教育の母と言われるナイチンゲールにはこんな言葉があります。

最も上手に人をおさめるのは、自分の責任下にある人々を愚かに甘やかすのではなく、その人のためになること、その人にとって最高の利益になることを親身になって考える人です。

 

そして、アフリカの小国ガボンで、現地の住民への医療などに生涯をささげ「密林の聖者」と呼ばれたシュバイツァー博士はこんな言葉を残しています。

人を動かすには模範を示すことが大切だ。というより、それしかない。

親分肌の上司は、自分の仕事は部下に気持ちよく仕事をさせること、そのための環境を作ってやることだということが分かっています。

当然、チームの成功は部下の殊勲、失敗は自分の責任と、淡々と受け入れます。

だからこそ、部下も付いてくるのです。

 

あなたは、部下の敬意と信頼を深め、仲間の知恵を結集して、連戦連勝街道を歩み続けたくはありませんか。