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専門コラム 第47話 相手の立場や考えを理解して、商道徳を踏み外さない実直なセールスをする。

 

ウルトラマンは絶対正義か

小さいころ、巨大化したウルトラマンが怪獣を相手に戦う姿に興奮したものです。

胸のカラータイマーが点滅し出すと、その興奮はさらに高まりました。

興味はいつ、いかに倒すかだけで、周囲の状況などは目に入っていなかったように思います。

 

ところが、大人になって誰かから指摘されて初めて、ウルトラマンの戦いの中で、ビルや構造物が遠慮会釈なしに破壊されていることに気づきました。

そこには人は映っていませんが、あれだけの建物が壊されたら、どれほど多くの人が巻き添えで命を失ったことでしょう。

もっとも、その前に周辺住民らの避難は完了していたのかもしれませんが。

 

人間に危害を加える怪獣をやっつけるのは、ウルトラマンにとってはもちろん、人間にとっても一面の正義です。

しかし、視点をずらせば、全面的に快哉を挙げることにはためらう事態が見えてくるのです。

 

単に建物破壊だけを指しているのではありません。

怪獣には怪獣なりの、戦うべき理由があったのかもしれません。

それが人間の価値観と相いれなかったため、敵であり不正義になったとも考えられるのです。

 

だから、「『自分なりの』正義感」なのです。

 

正義のヒーロー、「アンパンマン」の作者であるやなせたかしさんもこう言っています。

   

正義のための戦いなんてどこにもないのだ。

正義はある日、突然逆転する。

正義は信じがたい。

 

歴史においても同じことが言えます。

「歴史は勝者がつくる」と言われます。

国の正史は例外なく、戦いに勝ち、権力を握った者の手で書き残されます。

そこに、自らを正当化する手が加えられていないはずはありません。

滅ぼされた側にもあったはずの正義は、見事に消え失せているものです。

 

芥川龍之介は箴言集「侏儒の言葉」に次の言葉を残しています。

 

正義は武器に似たものである。

武器は金を出しさへすれば、敵にも味方にも買はれるであろう。

正義も理窟をつけさえすれば、敵にも味方にも買はれるものである。

 

商売の成否を分けるのは己の生きざま

正義に対して、いささか否定的になりすぎたかもしれません。

正義の中には、多くの人が正しいとうなずくものがあるのは確かです。

特に、道徳につながるものはそうでしょう。

「人にはやさしさと思いやりをもって接しよう」「困っている人がいたら助けよう」。

これらの考えを否定する人はまずいないでしょう。

実践できているかは別にして。

 

商売においても「商道徳」という言葉があります。

大辞林によると、商業活動において守らなくてはならない内面的な規範。

誠実さや信義など一般道徳に準拠するもので、過度の競争・不誠実な契約・虚偽誇大広告・粗製乱造・暴利・買い占め・売り崩しなどの行為を戒めるもの、とされます。

最近よく聞く独占禁止法の「優越的地位の乱用」と言われる行為も、この類でしょう。

 

司馬遼太郎によると、日本における商人の倫理は室町時代に芽生え、江戸時代に確立されたといいます。

その原型は鎌倉時代の「板東武者」の生きざまにあり、当時の武士の精神は信用によって支えられていたそうです。

 

信用を基本に置くところなどは、まさに商売に通じるものでしょう。

簡単な例を挙げれば、借りたものは返す、嘘をつかない、約束を守るといったことです。

これらは商売に限らず、生きていく上での基本的な教えでもあります。

 

人によっては、商売はそんな甘いものではないと言い張るかもしれません。

しかし、他人の物は自分のもの、おいしい話で釣っても売った者の勝ちなどのスタイルは、一時的には結果を残せるかもしれませんが、長続きするはずがありません。

 

京セラを一代で築き成長させた稲盛和夫さんも、商売を人生に重ね合わせてこう言っています。

 

 経営とは人として正しい生き方を貫くこと

 

お客様の心を開くには

営業の経験者なら、先輩や上司から「客の懐に飛び込め」と、一度は言われたことがあるのではないでしょうか。

相手に気に入られてつながりを持つことを意味しますが、セールストークをするにしても、初対面の人に対するときと気に入られている相手にするときとでは、効果の程に大きな差が出てくるのは確かです。

 

とはいえ、初対面であっても、たやすく懐に飛び込んでいける人もいます。

どうすれば懐に飛び込むことができるのでしょうか。

 

懐に飛び込むためには絶対条件があります。

それは、相手が胸襟を開いてくれることです。

そのためのテクニックは、相手によってさまざまあるでしょう。

ほめる、共感する、相手が話したがっていることを尋ねる、欲しがる情報を与える、そうした情報の持ち主であることを印象付ける、などがすぐに考えられます。

 

ただ、こちらの都合ばかりを考えて付け入ろうとしても、相手にたやすく見破られて、かえって壁を作られてしまうでしょう。

大切なのは、相手に心底、興味を持つことであり、常に相手のいい面を見つけようとすることではないでしょうか。

 

正義感について考えていると、近江商人の「三方よし」の教えがどうしてもちらつきます。

その近江商人にはこんな教えもあります。

 

 無理に売るな、客の好むものも売るな、客のためになるものを売れ。

 

「客のためになるもの」は、もしかしたらお客様自身も気づいていないかもしれません。

お客様の言葉の端々やこちらの言葉への反応などから、潜在している欲求に気づくためには、虚心坦懐に相手を見つめることが求められます。

 

本音をぶつけて本音を引き出すことが必要でしょう。

セールストークというものは、決して口のうまい人が成功するのではなく、誠実に接していることが相手にわかってもらえて初めて結果を生み出すものだと思います。

そして、誠実に接していれば、自分の中にストレスをため込むこともないでしょう。

 

古代ギリシャの哲学者、エピクロスはこんな言葉を残しています。

 

 正義のもたらす最大の実りは心の平静なり。

 

仕事において、自分なりの正義感を貫いていれば、心の負担も軽くなるのです。